貴方の好きな事、し・て・あ・げ・る!
上条 樹
第一章
第1話 エスカレーターの下から
関東から引っ越してきて一週間。
明日から心機一転新しい高校への登校日であった。大阪の街になれる為に、出来るだけ外出するようにして色々な店を見て歩いてみた。しかし、一人でウロウロするのも思ったほど面白くは無かった。そろそろ帰ることにする。
「・・・・・・・」目の前を二人組の女の子が楽しそうに会話をしながら歩いていく。その一人に俺の目は釘付けになる。
少し長めの黒髪、程よく膨らんだ胸、俺の太もものほうが太いのではないかと思われるほど細いウエスト、短いスカートから伸びる白く綺麗な足。うっすらとした化粧が可愛らしい。その子に目を奪われて、少しコースを変えてその後ろに釣られてしまった。彼女がエスカレーターに可愛く飛び乗った。その後を追うように試みたが、下から見える絶景に躊躇してしまう。そう、短いスカートの裾から・・・・・・・、見えそうなのであった。長いエスカレーター、きっと普通の建物の4階位に相当する長さであろう。
突然、中年の男が飛び出して来たかと思うと、俺の前を遮り彼女の後ろに張り付くようにエスカレーターに立つ。俺は、彼女と少し距離が出来た事に、軽い安堵感と残念な気持ちをミックスした感じになっていた。
「あれっ」前の親父の挙動が明らかに可笑しい。その手にはスマートホン、カメラが下から上を撮影するように向いている。(盗撮か・・・・・・・)それは誰の目にも明らかであった。
「オッサン・・・・・・・」俺は親父の肩を叩いた。
「な、なんだ!わ、私は何もやってないぞ!!」語るに落ちるとはこの事であろう。何かやっていたなんて俺は一言も言っていない。
「きゃ、きゃあ!」前の女の子が盗撮されていた事に気が付いた様子で慌ててしゃがみ込んだ。いや、しゃがんでも少し見えそうだし・・・・・・・。
「は、離せ!」親父は俺の手を振りほどいて、逃げようとする。俺はその手首を掴むと軽く捻り上げる。「いたたたたたた!!!」親父の顔が苦痛に歪む。
「どうする、このオッサン」親父の手を掴みながら女の子達に聞く。でも、彼女達にはどうすればいいのか判断がつかないようであった。そうこうしているうちにエスカレーターは、駅の改札前に到着する。
「なにかあったんですか!?」駅員達が駆け寄ってくる。俺は握っていた親父の腕を手放した。
「このオッサンがスマホであの女の子にスカートの中を・・・・・・・」ミニスカートの女の子が泣き出しそうな顔をしている。なんだか、あまり騒ぎを大きくして彼女達が晒し者のようになるのは気の毒な気がした。
「ちょっと、こっちに来てください。あなた達もお願いします」駅員が親父の背中に手を当てて、逃げないように注意している。
「あっ、はい・・・・・・・」俺達は駅員の後をついて行った。しばらくすると警察官がやってきて、親父のスマホに撮影された画像を確認していた。
「ふーん、なるほどね・・・・・・・、あんた常習犯だね」警察官の口ぶりからすると、結構な数の盗撮写真が残されていたようである。
「あっ、いや・・・・・・・、それはネットの拾い画像で・・・・・・・」親父は、見え透いた言い訳をする。その目は完全に宙を泳いでいる状態であった。
「・・・・・・・、あの、悪いけどこの画像を確認してもらえますか?」警察官は少し申し訳なさそうな顔をしてミニスカートの女の子にスマホの画面を見せた。その瞬間、彼女の顔が真っ赤に染まったかと思うと小さく頷いた。
なんだ、このプレーは・・・・・・・、俺はこの場にいることが少し恥ずかしくなった。
「ありがとうございました」解放された俺達は、改札の前で少し会話する。女の子達は深々と頭を垂れた。
「いやいや」俺は頭を掻きながら照れ笑いをする。
「でも、本当に最低です。盗撮なんて・・・・・・・」女の子は両肩を自分で抱きしめて震えるような仕草をした。下に目を落とすとやはり白く長い脚が艶めかしい。
「でもさ、そんなスカート履いてたら、男なら覗きたくなっても仕方ないぜ。俺だって・・・・・・」
パッチン!
「えっ!?」俺の頬に痛みが走る。
「最低!!」どうやらビンタを喰らわされたようであった。もう一度、彼女を確認しようとした時には、彼女の姿はかなり遠くになっていた。相当怒っているようで、蟹股で歩いていく。その横でもう一人の女の子が軽く申し訳なさそうに会釈した。
まあ、冷静に考えると、あんな被害にあった直後の女の子にかける言葉では無かったと、少し反省した。
しかし、ビンタは無いだろう・・・・・・・、ビンタは・・・・・・・、けっこう、痛い。
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