遺言

谷内 朋

本音

親愛なる友へ



我が人生 短かったが悔いはねぇ

思う存分生きられたと思う

ただ 大したことではねぇのだろ~けど

ずっと言えなかったことがある


俺は武蔵多摩の片田舎から

国をお守りする為上京した

その間悲喜こもごもあり

俺たちは時代の一幕に

名乗りを挙げることもできた


俺たちが作った組は

気づけば手に負えねぇほどに膨れ上がり

期待と重圧を背負って

国を守る為に戦った


そんな俺を常に持ち上げ支えてくれたトシ

高みを見せてくれたことには感謝してやがる

お前と共に過ごした日々は

死したトコで忘れることはねぇだろう


そう思えるほど充実した人生を

築き上げてくれたのは

お前を置いて他にいねぇ

お陰で我が人生てんから退屈しなかった



ただ──


俺はずっとカッチャンでいたかった

どいつから見ても立派で勇ましい

大人にやなんかならずともよかった

昔からつるんだ仲間と共に

使命を果たせさえすれば十分だった


組として仲間たちをまとめ上げ

使命を果たすために必要だったことは

重々理解してやがるつもりだ

けれど これまで馬鹿やってきた

仲間たちとの距離が広がっていくのを

俺は時々寂しく感じていた


名声なんかどうでもよかった

こんな に大きく立派な組やなんか

作る気も正直無かった

けれどそれが無ければ

夢は叶わなかっただろう


今更文句を垂れてやがるようにも

感じなくはねぇが

そうしてでも大成させたかった

お前の思いも理解してやがる


だっからこそ言えなかった

お前の期待に添える大将であり続けてぇと

思っていたこともまた事実だ


そいで今日

我が人生はここでついえる

最期にしと言だけ言わせてくれ

これまでお前と共に

生きてこれた日々を誇りに思う


それでも俺は


やっぱりカッチャンでいたかった



慶応四年四月二十五日

 

宮川勝五郎

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