真尋さんと酒井くんの日常【※BL※R注意】(この先はきっと青空ばんがい?むしろ本領)

ただしいツンギレの愛で方

 気だるい金曜日の早朝。

 昨日の夜に真尋さん家に強引に押し掛けてきたのに、本日定休の家主を置いて、一限の講義のために帰らないといけない我が身がうらめしい。

 というか、休日の朝から起こしてしまって悪かったかも、とか。なんなら遅くまで引っ張って悪かったかも、とか……こっちは仕方ないけど!ま、一応そんな風に思わなくはない。


「休みなのに早起きさせてごめんね」

「……べつに」

 朝から完璧に可愛い真尋さんは、無表情のまま手際よく朝食を出してくれた。そっけない風を装いながら、今日も優しい。


 華奢な首や手首が部屋着の間から覗いて、一見普通なんだけど、よく見るとちょっとダボっとした感じなのがセクシー。見えない腰が細かったり、完璧な美脚をあの服の下に隠してると思うと、三度見くらいして記憶を蓄えてしまう。

「……なんだよ」

 不機嫌そうに真尋さんは眉根を寄せて、ぷいっと顔を反らした。

「いや。真尋さんのエロ可愛さを今のうちにチャージしとこうかなって」

「アホか」

 顔を顰めて低く呟くのに、玄関に向かう俺の後を当たり前のように見送りについてくる。そういう所に、余計に調子に乗ってしまう。


 真尋さんは、わかりやすい。

 単純さは全くなくて、捻くれまくってるけど。悪態をついたならすぐに所在なさげな顔を覗かせるし、口では興味ないとかどうでもいいとか言いながら、離れようとしない。強引に会いに行けば嬉しそうだし、帰り際にはいつも名残惜しそうな様子を見せる。

 繕った無表情も、捻くれた口も、本音を覗かせようとはしないのに。行動が全てそれを裏切って、ある意味ものすごく素直だと思う。


「あーあ。行きたくない」

 玄関のドアの前、くるりと身を翻してヘラリと苦笑した。

 もう、本気で、本音で、心から。離れたくないし。

 この可愛いしかないって空間から、現実に戻るためには全身の気力を使い果たす。


 驚いて足を止めた真尋さんは、俺を見上げて唇を皮肉気に歪ませた。

「勉強しろ学生」

 からかいの声音に乗って、トン、と胸を叩かれる。

 その手はそっと俺の腕を撫でて降りて行って、ほんの少しだけ指先で袖を摘まんだ。

「………今日も、帰ってくればいいだろ」

 フイっと視線を反らして、真尋さんは憮然とした様子で呟いた。


「あーあーあー行きたくねぇ………」

「うるさい」

「最速で終わらす」

「お前が講義すんじゃねーだろ」

「買収」

「やってみろよ」


 甘くて甘くて、溶けてしまいそうだよ、真尋さん。


 袖口を摘まんだままの指を、反対の手でぎゅっと握った。

「待っててくれる?」

 俺の掌の中で、慌てたようにぎゅっと握りしめられた手が震えて。俯いたままの顔が、ほんのりと赤みを増した。


「知らんし」

「待っててくれたら嬉しいなー」

「勝手に帰ってくればいいだろ」

「勝手に帰ってきていいんだ。もう住んじゃうよ?」

「週何回いると思ってんの!」

「ダメだった?」

「そんなこと、言ってないし!」


 おかしいな。ツンデレ萌えはなかったんだけど。ちょっと間が開けば、恐る恐るこっちを伺い見てる真尋さんの、その不安そうな瞳が、最高に………。


「あー、可愛い。無理」

「えっ、何?は?意味わからん」


 ぎゅうっと抱きしめると、真尋さんは驚いてじたばたと身じろいだ。でも、突き放すような力は全く向けられていない。

 照れた声音が小さくなっていって、密着した身体はぽかぽかと温かい。


 本当、遅刻まっしぐら。


「無理だけど死ぬ気で行ってくるから、待っててね」


 身を切る思いで可愛いの塊を離して、その顔を覗き込むと、にんまりと唇の端を緩ませていた真尋さんは、目を見開いて俺の身体を押した。


「……待ってる」


 真っ赤な顔で睨みながら、俺を家から押し出した真尋さんが、ドアを閉める瞬間にぼそりと消え入りそうな顔で呟く。

 今日ここに帰ってくることを楽しみに、憂鬱の欠片まで晴らした一日が最高にハッピーに始まった。

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