一日の謎は7つじゃ足りない(ケンイチという男)

 模府もぶ 兼一けんいち、19歳。

 平凡な人生を歩み、これと言って特徴もない地味な地方の国立大学に通い、これまた第一印象は「普通」の、仲良くなってからの印象も「普通」。

 だが、俺はそれでいいと思っている。平和、平凡、平均的。これこそ何よりの俺の心の安寧。誰に勝りたいとも思わない。楽がしたいとか得をしたいとかも思わない。やるべき事をやり、抜くところでは気を抜いて、相応の対価を貰って平穏に生きていきたい。これがモットーだ。


 しかし、世の中には平凡ではない人生を送っている人間も多いと思う。小学生の時から万年生徒会役員だった俺にはとても友達が多かったが、不思議なやつも多かった。


 小学校からの幼馴染だった美架みかはよく何もない所を見て笑いかけたり、何度も一人で喋っているのを見たことがある。高校からは別の学校に通ったので今はどうしているかわからないけど、とにかく変わったやつだった。


 中学にあがってから、そんな美架と同じように妙な行動ばかりする快晴かいせいという男と知り合った。

 快晴の場合は美架よりももっと気を散らしている頻度が高く、周囲から孤立しがちだったからフォローが大変だった。でも本人は悪いやつではなくむしろ気を遣う性分だったと思う。


 この辺りまでは、まだちょっと変わったやつもいるんだな、くらいの感覚だったと思うのだが、高校入学以降は俺の周りに変な奴はどんどん増えて行った。

 高校の生徒会活動はかなり活発で、俺の活動範囲も以前よりずっと増えたのだから、まぁ、割合的には変わってないのかもしれないけど。


 高校の同級生だった崇士たかしは、以前3日間病欠したことがあったが、俺はその初日に、あいつの親から行方を知らないか打診されていた。3日で帰ってきたものの、きっと家出でもしていたのだろう。

 しかし、事もあろうに体育祭で、友人のあらわが異世界人を招くアナウンスをふざけてした際に、崇士は自分は異世界人だと言い出した。

 全く、ふざけた奴らで手が焼けたのだが、その後二人は3日間一緒に学校を休んだ。それから妙に大人しくなってしまって、俺は気がついたらあいつらとつるまなくなっていた。

 多感なお年頃だったと言え、あいつらにも悩みがあったのかもしれない。生徒会活動に奔走するあまり、話を聞いてやれなかった事は今でも心残りだ。


 なぜ高校での生徒会活動があんなにも忙しかったのか。それは、一学年上の田中先輩と鈴木先輩が張り合って、より良い生徒会を目指して突っ走りまくっていたからだ。

 あの二人は競わないように引き離すか、いっそ一生二人一緒にしてしまった方がいいと思う。


 そうやって地味に堅実に生きてきた俺であるが、大学三年生となる今も周囲は変わった人間ばかりだ。

 近所に住む幼馴染だったももは、高校まで一緒で大学に入ってからようやく離れた腐れ縁なのだが、最近、最安値よりちょっといいスーツを着た社会人の男と嫌そうに並んで歩いているのを時々見かける。大丈夫なのかとちょっと心配だ。

 たまに顔を真っ赤にして自宅の方に向かって全力疾走しているのを見かけるが、あれは何なのだろう。

 そういう日は、家に帰ると在宅勤務の父もネット回線の調子が悪いと顔を真っ赤にして怒っている事が多く、一瞬この二人に禁断愛でも芽生えてるんじゃないかと過ったが、余りにくだらない妄想なのでそっと心の内に仕舞い込んだ。


 桃に恋愛感情を抱いている訳ではない。俺はあんまり女性に興味がないというか、まぁこんな性格なので、揉める事が多くて面倒に思っている所があるのだ。

 しかし、最近は妙な女性に追い回されている。歩生あおいという名前らしい、近隣の有名な芸能関係およびお金持ちの通う高校の制服を着た彼女は、俺がどれだけ面倒くさそうに嫌な顔を見せたとしても、「インテリ繊細萌え眼鏡、尊い」といって喜んでいる。顔はとても綺麗な部類なのではないかと思うのに、行動がものすごく残念だ。


 俺の好みはと言えば、昔家の近くに住んでいて、今でもたまに連絡を取る癒し系の咲良さくらお姉さんみたいな人なのだが、もう少ししたら結婚するらしいと聞いて少しショックだ。国外で挙式をするから招待できないと申し訳なさそうに言われたが、きっと目の当たりにするとオッサン臭く昔は…と言って号泣してしまった気がするので、できなくて良かったのかもしれない。

 元々頻繁に顔をあわせていた訳ではないし、SNSは繋がっているから、距離感は変わらないかな。

 でも、どこの国に行くのか尋ねても教えてくれず、「ケンちゃんの知らない遠い所」とはぐらかされてしまったのは不満だ。知らなければ調べてみるくらいするのに。


 俺の周りは結婚ブームなのか、長らく独身だった高井田たかいだの叔父さんなんか、もうすぐ24歳も年下の俺と年齢が変わらない子と結婚する。しかも悔しい事に可愛かった。

 快挙なのか暴挙なのか。涙もろいじいちゃんばあちゃんは水分が枯れそうに泣き散らかしている。明日はポカリでも持っていこう。いや、体を思えばOS-1がいいか。


 そんな俺の最近もっぱらつるんでいる相手である流太郎りゅうたろうは、最近浮かない顔ばかりしていて、この前なんかは「生きているって何だろう」的な事まで言っていた。この頃は付き合いが悪く、以前はたまにあいつの家で一緒に飯を食ったりもしていたのに、今はそれを嫌がってる素振りもあるので、まさか家でテロを起こす準備でもしているんじゃないかと心配だ。

 さすがに流太郎はそういう性格ではないと信じているが、変わった知り合いの多い俺には一抹の不安が残ったままだ。



 誰よりも普通に、堅実に生きてきたのに、周囲は奇人と変人だらけ。きっと俺はこれからも変わらず平凡な人生を歩んでいくんだと思うけど、世の中に普通から逸れた物事はありふれていると思ってる。

 七不思議とよく耳にするが、世界には一日7個じゃたりないくらい不思議なことばかりだ。

 ほら今も、七人から尾行されてる男の人が目の前にいるんだけど、これは声をかけるか通報するべきなのかな?

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