花金参加作品

夫婦の夜明け/引きこもりの婚約者が嫁にきたけど可愛い ver.Kissを堪能

 お話の流れ

 主人公アシルはぼんやりと前世の記憶がある元日本人。某国随一の公爵家令息の彼のもとに嫁にきた引きこもり令嬢エリーザは人見知りで、じんわり距離を詰める作戦を取っていたら、妻として務まらないなら優しくしないでと泣かれてしまった。

 可愛くて抱きしめたら気絶した。絶賛イマココ。

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 一周回って逃避行から帰ってきた夜更け、俺の腕の中で気絶したままのエリーザは起きる気配はないし、俺の熱意も全くさめる気配はないのである。

 間に一人半分スペースが空いていた事で、倒れこんだエリーザの顔は俺の胸よりもちょっと下にある。規則的に服を撫でる熱い吐息が絶妙にくすぶる熱を忘れさせてはくれない。それどころか頭の中にはぐるぐるぐるぐると今すぐにでもエリーザを抱きたい衝動が渦巻いている。寝苦しい格好にもぞりと身動いで、ん…っ、と小さくむずがるようにのどを鳴らすエリーザは凶悪なほどに色っぽい。

 だが、彼女はまごうことなき処女。あんなお願いをされたからといっても、気を失っているうちに、というのはいくらなんでも酷すぎるだろう。でもこのまま寝かしてしまえば、目覚めた時にまたエリーザは落ち込んでしまうかもしれない。


 とりあえず、エリーザと話しをしなければならない。その前に…話ができる状態にならなければならない。

 何をかくそう現在の俺は、19歳のDTである。独身生活を謳歌し、いい大人の駆け引きで週末の度にレディと出会って一夜のロマンスを楽しんできた、手慣れた社畜エリートではないのである。あ、今確実にいらない記憶を取り戻したな。なかったことにしよう。

 こんな暴発待ったなし、誤射か下手したら大爆発や暴動が起こり得るような状況下じゃ戦えない。戦況を左右するのは入念な準備であるという。だからここは一時休戦を選ぼう。まずは頭もだが身体をさますべきだ。

 エリーザをそっと横たえて、俺はそろそろと個室トイレへと退避した。駆け込むこともできないからなんかじゃきっとない。5分で戻れる気がしたが、予想よりもいいタイムを出して愕然である。いや、パンツをはきかえる時間まで合わせたら5分は越えたからセーフだ。紳士たるもの、ぬるついたパンツで真剣な話はできないのである。身体に染み付いたエリーザの感触で最ッ高にエキサイトしてきたけど。これもエリーザからは見えないからセーフなはずなのだ。


 エリーザはあどけない顔で眠っていた。体勢が楽になったからなのか、健やかな寝顔は無防備だ。まだほんのりと赤い頬が柔らかく綻んで、濡れたように艶めく唇は半開きだった。起こすのが忍びないような、健全な愛おしさを感じることができたのは、一旦スッキリと心身をリセットした戦略の勝利かもしれない。だけど、じっと見ていると、唇の合間にわずかに覗く舌や柔らかい粘膜の赤が意識に焼き付いてしまいそうで、また肉欲てきに捕獲されてしまう前に俺はエリーザを起こすことにした。

 距離は…最初からつめてしまおう。横たわるエリーザの横に寝転んで、その身体を抱き締める。滑らかな薄い絹の向こうで指の形に柔肌が波打つ。神経が細やかだからか、エリーザは細身だ。だけど、胸はふっくらとしてお尻から太腿までも柔らかそうで、実に肉惑的な体型をしている。薄い夜着はその全てを余すところなくさらし、防御力ゼロ…むしろ攻撃力が高いほどに布越しでも体温や肌の感触を伝えてくる。

 俺の胸元にはエリーザの柔らかな二つの膨らみが押し当たり、首筋を温かい呼気が擽っていく。それだけで、19歳DTの身体は再び射ぬかれてしまった。いやまだ、さっきよりは随分とましだ。


 ドキドキと鼓動が脈打つ。身体が熱くなればなるほど、触れているエリーザの温かい肌の感触を強く感じる。鼻先の彼女の髪からは、今日も磨きぬかれた甘い花の匂いが漂っている。

 乾いたのどをごくりと鳴らして、俺はエリーザの耳元で呼び掛けた。

「……エリーザ、エリーザ。起きて、聞いて欲しい。」

 何度か呼び掛けると、彼女はふるふると顔を振り、俺の首筋を頬で撫でた。呻くように彼女ののどが不満そうな音を鳴らすのが、激しく妄想を掻き立てる。思わずゆるく腰を抱いた指へと力がこもってしまい、彼女はびくりと身体を震わせた。身体を密着させて抱き締めていたので顔は見えないけれど、耳元で悲鳴にならなかった声で喘ぐのが聞こえる。みるみると腕の中の身体が熱くなって、視界の端に映る彼女の耳朶はわかりやすく真っ赤だった。

「あ…の……、だんなさま、…。」

 狼狽える彼女の掠れた涙声が耳を擽る。状況がのみこめなくて、テンパっているのだろう。目を回しそうにゆだっているエリーザの顔が見たい。けれど、その前に伝えなくては。

「俺は、エリーザを可愛いと思っているよ。ただ君が怯えないでいいように、ゆっくりと夫婦になれたらいいと思ったから、君を抱きたいと思っても我慢してきた。それが、エリーザを不安にさせてたなんて、すまなかった。」

 さすがに顔を見て言う勇気はない。きっと隠しきれない煩悩だって駄々漏れているし、顔には今すぐに暴きたいとしか書いていないだろう。けれども、こうやって悩んで画策するあたり、これはちょっぴり格好をつけた俺の本心なんだと言いきれる。


 エリーザはふるふると身体を震わせて、俺の肩に顔を埋めるように俯いた。じんわりと服へと染みていく熱を肩に感じて、小さく鼻を啜るような音が聞こえて、俺の背中のシャツを震える指先が遠慮がちに掴むのを肌で感じた。しばらくそうしてエリーザを全身で感じていると、吐息のような夢見がちな音が微かに俺の耳へと言葉を運んだ。

「…………………うれしい。」

 甘く蕩けるような、幸せそうな声。

 今度はたまらずに彼女から上半身を離してその顔を覗き込む。真っ赤な顔をして、泣き濡れた、宝石のように輝く金の瞳は熱に浮かされて陶然としていて、頬は緩んでふにゃりと口許を笑ませている。その顔を一拍遅れて驚きに変えた後、彼女はばっと俺から顔を反らした。俺の腕から半ば逃れた身体はうつ伏せて、顔はシーツに埋まってまた見えなくなった。

 それなのに、俺の背でシャツを摘まんでいた手は、すがるように俺の腰に触れたまま、逃れきることはせずにそこで布地を握る。敏感な一帯を不意に刺激されて、ぞくぞくと過敏な神経に甘美な刺激が走った。

 この無防備な手は、男の欲を知らない。知らしめていいのは俺だけなのだと言う事実に、ざわりと背骨が痺れた。


 うつ伏せた額に唇を寄せる。啄むキスを繰り返しながら、乱れた髪を指ですく。その度に彼女の肩はひくりと揺れて、顔を上げるか悩んだように少し首を傾けて、すぐにまたシーツに沈んでいく。寝具に押し潰された吐息が不規則に鳴り響いて、息苦しくなってきたのか胸を上下させながら呼吸を喘がせている。少し寝乱れた夜着の裾が緩んで脚線美をきわどいラインまで覗かせていることも、彼女の腹部に敷き混まれたままの俺の片腕が、彼女が身動ぐたびに温かく柔らかい肌で布越しに擦られていることも、必死な彼女は気づいていないのだろう。

「…可愛いエリーザの顔が見たい。」

 彼女の耳元にキスを落として睦言のトーンで囁くと、彼女はシーツを揉みくちゃにしながらぶんぶんと顔を振った。それがちょっと痛そうで、よしよしと宥めるように頭を撫でると、エリーザはぴたりと動きを止める。ふるりと肩を震わせて、曇った声が小さく小さく言葉を連ねる。

「……もうしわけ、ありません…。わっ、……わたくしは、こんな…、こんなふうで……。う、うれしいのです、……なのに、はずかしくて、…こんなふうでは、だんなさまに……ごめいわく、おかけするだけで……」

 懺悔のような言葉も、きっと勇気を振り絞って口にしたのだろう。よしよしとまた頭を撫でると、エリーザは意を決したように勢いよく顔を上げた。深く溝を刻んだ眉根に、困ったように下がった眉尻。泣き濡れた目元は擦れて赤い。ぎゅっと引き結んだ唇がすぐに酸素を求めて、口角を下げたままうっすらと開いて熱い吐息をこぼす。その様は可哀想なのに蠱惑的だった。


 衝動的に赤い唇を啄む。何度も柔らかい感触を唇で食んで楽しんで、戸惑うエリーザの無防備な唇の向こうに忍び込む。濡れた柔らかく熱い粘膜や所在なさげな舌を思う存分味わいながら、力が抜けたエリーザの身体を抱き締めなおして、ゆっくりと体勢を変えて腕の中から逃れられないように上からのしかかる。

 ひくり、ひくりと時折揺れるエリーザの肩を宥めて撫で、解放された僅かな間をぬってはくはくと喘ぐ彼女の呼吸を弄ぶ。声にならない甘い音と、深い口付けを見せつけるように響く濡れた音が、鼓動の鳴り響く聴覚を占める。

 抱き寄せたエリーザの火照った柔肌に、焦れるままに腰を擦りよせたのは最早自然の摂理とも言える。

「……っふ、……ぁ、っんん……、あ、はぁっ…」

 限界を超えたエリーザが酸素を貪るように大きく口を開いて喘いだ。

 ようやく唇を解放し、少しだけ身をおこして彼女の顔を見下ろす。

 エリーザは肌を赤く染めたまま、はふはふと忙しく呼吸に励んでいる。緩んだ唇は溢れた露で濡れそぼち、淡く覗いた舌が力なくしなだれている。その瞳はとろりと蕩けて惚け、扇情的な熱を孕んで滲んでいた。もぞりと動く彼女の腰が、無意識にねだるように俺の身体を押し返して、指先が丸まった足先はシーツを蹴って震えている。

 キスだけでこんなにも乱れてしまったエリーザが期待の何倍も可愛いくて、もう色々考えるのも面倒になった。というか、無理だ。下半身の砦の最終兵器リーサルウェポンに全ての血流も熱意も持っていかれてしまった。おかげで性能も規模も格段に向上した兵器だが、マシンガンでないことを祈るばかりである。

 もう一度エリーザの唇を啄むと、彼女は陶然としたまま頬を緩ませてふにゃりと笑った。

「だんなさま、んんっ……だんなさま…」

 涙の痕が残る頬を擦りよせて、エリーザがぐずるように甘えついてきて、熱の浮いた金の瞳を幸せそうに笑ませる。

「だんなさま、………アシルさま、だいすき。」

 夢見心地の彼女の告白に、勝てる理性なんてこの世には存在しないだろう。少なくとも俺にはないに決まっている。


 こうして結婚一週間目の夜は、朝日が昇るまで濃厚に続いた。あれやそれやこれらの思い出なんて、俺の嫁なので俺だけが知っておけばいいのである。

 とりあえず反古にしていた結婚休暇一週間は、翌日から強奪することにした。大丈夫、仕事はだいたい片付いてたから問題ないのだ。

「あ…っ…、旦那様、………アシルさま、お…おはようございます……。」

 日の昇りきった頃に目を覚ましたエリーザが、真っ赤になって言葉をつまらせながら、俺のシャツを摘まんで幸せそうな照れ笑いを見せた今日。

 俺はいつまでもエリーザを引きこもらせて、愛でていたい気持ちでいっぱいだ。

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