(一)‐3

 若者は体を起こして受け取った。どこか痛みがあるようなほほえみは、大きなひまわりのような笑顔に変わっていた。そして絵を抱きしめた。

「恋人ですか」

「はい。良くおわかりになりましたね」

「絵を見ればわかります。タッチ、色使い、モデルへの慈愛が感じられたんです」

「本当に、本当にありがとうございます」

 郁雄の目から涙がこぼれ落ちた。

「もしかして、その絵のモデルの女性は、もう……」

「……ええ、亡くなりました」

 涙をぬぐいながら、郁雄は語り始めた。

「恵美と最初に出会ったのは、高校一年の時です」

 若者は、窓の外に視線をやった。


(続く)

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