第12話 密会
「ふむ、流石は『王国彫刻師』、その名は伊達ではないということか」
「な、何を呑気に落ち着いているのですか!? バルバリオン家は恥をかいただけなのですぞ!?」
とある豪奢な屋敷に、二人の初老男性が密会をしていた。
ホギルから事の仔細を受けたバルバリオン家当主は、密会相手の男にそれを伝えたのだが、彼は憮然と白色の髭を撫でるだけであった。バルバリオン家当主は内心穏やかではいられず、立場も弁えずに気を動転させてしまう。
「いやはや、ワタシもまさか、王女が手出ししてくるとは予想外だったのよ。しかし、そちらの息子も無様に敗北を喫したのであろうに? とやかく文句を言われる筋合いはないと思うが」
「むぐぅ……」
壁に掛けられた燭台の炎が、彼の顔に浮かべた屈辱を照らし出す。
白髭男の要望を聞き入れたのがバルバリオン家当主の運の尽きであった。
大怪我をさせる、悪目立ちさせる、悪名を広めるなど、とにかく『王国彫刻師』の評判を下げろと所望されたが、これでは本末転倒である。恥に塗れたのはバルバリオン家の方だ。
しかし、白髭男の頼み事を立場上、バルバリオン家は無下にすることが出来なかった。
「ふん、まぁそう慌てるでない。どうせ王女に睨まれている間は手を出せないのだから。あれは生きる自然災害みたいなものよ。一介の学徒如きにどうこう出来る代物ではない」
彼は白髭を撫でるのを中止すると、腕を考えて思考を巡らせる。
魔導学園に滞在している以上、外部の者がロティに手を出すことは不可能だ。特に北の魔導学園の学園長は、『王国魔導騎士』さえも太刀打ち出来ない実力者だと聞く。《結界》の魔導で厳重に警備された魔導学園に攻め入るのは得策ではないだろう。
それに、忌まわしい彫刻という芸術文化を廃止させるには、世間を大きく揺らがせる要素が必要だ。今回こそは入念に下準備をして、国王や民間人が彫刻に寄り添わなくなるようにしなければならない。
何しろ、前回は――『王国彫刻師』の父親を暗殺して、彫刻という芸術文化をより一層広めてしまったのだから。
「……さっさと殺して、王城の壁にでも貼り付けてやりたいわ」
いや、それも選択肢としてありだろう。
偉人が無様な死に方を遂げれば、大衆はそれから目を背けるに違いない。
「しかし、魔導学園に入学してしまった以上、手を出す事が……」
彼は再び自分の髭を撫で始めると、方法を思索していく。
本当なら今すぐにでも四肢を腑分けして貼り付けてやりたいところだが、強行な作戦を取ればリスクも高まってしまう。もし暗殺者を送り込んで捕まりでもすれば、自分の首を締めることと同義なのだ。
「あ、あの、一つよろしいですか?」
バルバリオン家当主が、白髭男に発言の許可を申し出る。
「どうした?」
「これもホギルから聞いた話なのですが、次の休日、彼らは素材を採掘しに〈死者の祠〉へ向かうらしいです」
「っ……くくく、それを早く言わんか。早速、刺客を送り込む手筈をしなければな」
「よ、よろしいのですか? 王女様や同教室の学徒も同行するらしいですが」
「よいよい。確かに王女は最強の魔導使いかもしれぬが、あれもただの人間だ。対策の仕様など幾らでもある」
白髭男はニヤリと侮蔑の笑みを浮かべると、蝋燭の火が妖しく揺れる。
「くく、わざわざご足労いただき感謝する。また何か情報を得られたら、直ぐに知らせるようよろしく頼む」
「……わかりました。それでは」
バルバリオン家当主が屋敷を後にすると、白髭男は指を鳴らして暗殺部隊の一人を呼び出した。
瞬時に覆面の男が現れると、白髭男は短く用件を伝える。
「次の休日、〈死者の祠〉に向かうそうだ。殺れるな?」
「承知致しました――バファロス様」
「頼んだぞ、くくく、くはははッ――」
白髭男の低い嗤い声が、応接間に響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます