2.おはようのちゅー ⑤
◇◇◇◇
子どもって好き?
鷹雪くんに問われた言葉が気になって、ごはんに集中できなかった。
子ども。
すき、だけど。
まだ、早い、かなあ、とは思う。
結婚してから、3ヶ月経つか、経たないくらいか。
まだあなたのことをなにも知らない。
つき合いは長いけれど。
どうしたら笑ってくれる?
どうしたら喜んでくれる?
どういうことで怒るの?
どういうことで悲しむの?
好きな食べ物は?
苦手な食べ物は?
幽霊は信じてる?
怖いものはある?
どっち向きで眠る?
どっちの足から靴下を履くの?
おヒゲはどのくらいで生えてくる?
私を抱っこするとき、重くない?
知らないこと、わからないことは沢山あるの。
ずっとずっと隣で生きていくのだから。
もっともっとあなたを知りたい。
私のことも知ってほしい。
わがままかもしれないけれど。
すべてを知ってほしい、とは言わないから。
あなたの前ではほんとうの私を出せる私でいさせて。
私の前では、ほんとうのあなたでいて。
そのために、もっともっと知りたいの。
だけど、子どものことはいつかきちんと考えないといけないこと。
いままで夫婦生活については彼に任せっきりで、自分から語ることは避けていた気さえある。
わからない、
教えて、
あなたに任せるわ、
ばかり。
いまはもう子どもの作り方だって知っている。
わからない、教えて、あなたに任せるわ、は通じない。
ふたりで暮らしていくのだから。
私自身のことでもあるのだから。
いつかはきっと。
話し合わないといけないこと。
――だけど、いまはやっぱり、鷹雪くんと2人だけの時間も、思い出も、もっともっとつくりたいな。
でも、鷹雪くんがほしいっていうのなら……
じっと顔を見つめれば笑ってくれる。
口の端がくいっとあがって、緑色の瞳がやさしく笑う。
なんだか照れてしまって、彼の顔を見つめたままパスタをフォークに絡めた。
「あ……亜子ちゃん、それ」
ひょいと食べたパスタ(と思っていたもの)は、赤い赤い唐辛子だった。
口の中で容赦なく暴れる。ぴりぴりとする。
「ぴゃっ!」
「だいじょうぶ」
「らめ……」
「あ、それエロい」
彼がなにかとんでもないことを言っていた気がするけれど、それどころではない。
鷹雪くんが差し出してくれたお水。
それを飲んで舌を落ち着かせる。
昨日からお水だったりココアだったり、飲み物をもらってばかりだ。
唐辛子が効いたようで、さっきまでうじうじ考えていたことが嘘のように吹っ飛んでいった。
いつか、結論を出すから。
もう少し待っててね、旦那さん。
「ふう……」
「辛いのだめなのになんでペペロンチーノ」
「……鷹雪くんがすきだから。」
「うっ」
へんな動きとうめき声をしてから鷹雪くんは黙り込んでしまった。
鷹雪くんも辛いところに当たったのかな。
俯いたまま顔を赤くしている。
お水を差し出せば一気に飲み干した。
ふう、と一息ついて、世紀の発見をしたような顔をする。
「――あ。ニンニク食ったらちゅーできないじゃん」
「あ。」
「飯の前にしとけばよかったな」
「ふふ、そうだね」
まだキスのことばかり考えてる。
かわいい旦那さん。
あなたとの子どもなら、きっと明るく元気な子。
明るい家庭になるね。
すてきな家庭を築きたいの。
だから時間をちょうだい。
うじうじ言い訳ばかりしていたけれど、ほんとうはね、私――
フォークをくるくる回し、今度こそパスタを絡める。
ニンニクの味が口いっぱいに広がった。
あなたが好きなものは、私もすきなもの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます