2.おはようのちゅー ③
◇◇◇◇
私たちの出会いは高校生の頃。話すと長くなるので詳しいことは割愛しますが、いろいろ経て、共に人生を歩むことになりました。
ほんとうに、いろいろ。
そして今年の3月、私の誕生日に入籍。6月には小さな結婚式を挙げて晴れて夫婦に。
夫・松本鷹雪と妻・(旧姓夏目)松本亜子。
それと2匹の猫たち、鷹丸と小夏と一緒にちいさなアパートでのんびりと暮らしています。
贅沢な暮らしもしていないし、お金だってたくさんあるわけではないけれど。
だいすきな旦那さんと一緒、
だいすきな猫たちと一緒、
それだけでしあわせです。
そうそう。
これを話すと皆さん驚かれるのですが、私たち、いわゆる『おとなになった』のは結婚してからで、ずっとずっと清い関係でした。
だからなにをするにもはじめてで(しかも私はそういうことに関して全然知識がなくて)、どうしてか知識が豊富な旦那さんにいろいろと教えてもらいながら、少しずつ少しずつ、おとなになって、夫婦になっている最中です。
まだまだ未熟なふたりではありますが、あたたかく見守っていただけたらと思っております。
そんなえっちな旦那さんはハグをするふりをして私の身体をふにふにとさわった。
「もう」と口をへの字にして怒れば、いつものように「ははは!」と歯を見せて笑う。
何気ないことだけれど、それがしあわせ。
えっちで甘いものが苦手な私の旦那さんは、近所のスイミングスクールで先生をしています。小さな子からおじいちゃんおばあちゃんまで、幅広い人たちに水泳を教えているのだとか。
水泳の方もまだまだ現役で、たまに大会にでていたり。
私自身スポーツに疎いのであまりよくわからないのですが、専門は背泳ぎだそうです。
そういえば高校1年のとき、自己紹介で彼が「バックがどうのこうの」と言ったときにクラスが凍りついていたことを覚えています。
その理由をようやく知ったのは、先々週のこと。
無知な私は「背泳ぎってバックっていうんだ」なんてことしか考えていなくて、――実際に『して』教えてもらうまでなんのことかさっぱりでした。
――そんなことはどうでもよくて。
かっこいいルックスと人柄の良さから、近頃おばさまたちに人気があるとの噂を聞いてひやひやしています。
鷹雪くんなら心配ないと思うけど。
でももし――
そういえば昨日、やけにはずかしい言葉ばかり投げかけてくれた。
普段言ってくれないことばかり。
もしかしてそれってお酒のせいじゃなくて……
「昼、なににする?」
「あ、パスタ買ってあるよ」
「手伝います」
ほら、いつもはお手伝いするなんていわないのに。
そういえば昨日、飲み会っていってたけど本当なのかな。
いつもは事前に教えてくれるのに。
今回は。
疑ってしまう自分が醜くて、いやなのに。
それでも疑ってしまう。いやな女。
「たかくん、昨日……」
「ん? 気持ちよかった?」
「うー!ばかばか!」
「はは、顔洗って、着替えて、寝癖なおして、ごはんの準備して、おはようのちゅーしよう」
「……うん」
私のこと、すき?
なんて愚問。
彼はいつも私のことを想ってくれている。と思う。
立ち上がった彼のシャツをひっぱれば振り向いて笑ってくれる。
メガネは外さないよ。
「お、おはよう」
「ん?」
「……まだ言ってなかったから」
おはよ、と彼が笑って。
大きな手を差し出す。
その手を取り、私も立ち上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます