1.眼鏡を外して。 ⑦

◇◇◇◇


 だいすきな手が私の髪をやさしくなでてくれる。さっきまでの熱い熱い余韻に浸りながら。

 なんだか眠たくなっちゃうな。

 とろんとした深緑色の瞳。

 じっと見つめればやさしいキスが降ってきた。


 軽くふれて、

 ちゅっと音が鳴って、

 彼の笑顔が見える。

 私も笑顔を返して鷹雪くんの髪をなでた。


 あのね、

 たくさんほめてくれて、

 たくさんすきっていってくれて、

 たくさんなでてくれて、

 たくさんたくさん愛してくれて、



「ありがとう」



 鷹雪くんはなんにもわかっていない顔をして、「ん?」と首をかしげる。

 いいんだよ、わからなくて。

 しばらくしてもわからなかったみたいで、



「俺もありがと」



 と、私のほっぺをぷにぷにとつついた。


 もう。

 鷹雪くんは意地悪ばかりする。



「はは、ごめん。水持ってくる」



 私の身なりを整えてくれてから、彼はベッドからおりた。こういう、ちょっとした気遣いができるところも、すき。


 広い背中を見送っていると、茶色い塊が私の膝に乗った。鷹丸と小夏だ。


 私たちが抱きあっている間、どこにいたのだろう。


 鷹雪くんがお部屋から閉め出していたのかな。

 もふもふと2匹をなでていると鷹丸が布団の中にもぐる。

 それに続いて小夏も布団の中に侵入し、足元でもぞもぞと動く。


 ――そういえばこの子たち……


 重要なことを思いだした瞬間、刺激に襲われる。



「きゃー! たーくん、なっちゃんっ、くすぐったいよう、あはは、だめ、やんっ」



 ドアのところにいた鷹雪くんの、ごくりとのどを鳴らす音が聞こえた。

 それからすぐ部屋を出ていってしまう。

 薄情者。助けてよう。


 時間が経っているとはいえ、まだ敏感なおなかの上で猫たちがごろごろとのどを鳴らす。


 振動が、変な感じ……


 さめかけた熱がまた、身体の奥のほうからじわじわとこみ上げてくる。

 ふわふわの毛が素肌をくすぐる。

 いけない。



「ひゃあっ!あっ、そこは……」



 やだ、

 どうしよう。

 私、どうしたらいい?

 やさしい旦那さん。


 今日は金曜日。

 ねえ、旦那さん。

 少し赤い顔をして、やっと戻ってきた旦那さん。



「水――持ってきたけど」

「うん……っ」

「亜子ちゃん、顔真っ赤なんだけど」

「た、鷹丸たちがね……ひゃうぅっ」

「え、足の間にいんの?」

「たすけて」

「……ん」



 私から離れようとしない鷹丸を無理やり引きはがして、再びドアの外。

 寝る体勢になっていた小夏も、可哀想だけど鷹丸と一緒に。



「あいつら、ほんと亜子ちゃんの股間すきだね」

「ううう」

「フェロモンでもでてるんじゃない」

「あ、だめ」



 私の弱々しい抵抗もむなしく、

 今度は鷹雪くんが私の足の間に割って入る。


 口づけと一緒になまあたたかい水が口いっぱいに広がる。

 こくん、と飲み込めばまた。



「水のんだら、さ……」



 せっかく整えてくれた衣服がゆっくり乱されていく。


 私はそっと手を伸ばし、鷹雪くんのメガネを外した。


 今日は金曜日。

 夜はまだ始まったばかりだよね。

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