眼鏡を外して。

七緒やえ

1話 眼鏡を外して。

1.眼鏡を外して。 ①

 俺たちの始まりの合図は、メガネを外すこと。

 ぎこちない手つきで、細い指で、小さな手によって、そっと外されていく。途端に背景がぼやけていく。


 コンプレックスをひた隠す俺のメガネ。

 彼女が好きだと言ってくれる緑色の目。

 その目で見つめて、見つめられて。


 矯正のなくなった視力ではぼんやりとしかわからないけれど、彼女がほほ笑んでいることはわかる。

 さらさらとしたきれいな栗色の髪を揺らし、「よろしくお願いします」と頭を下げて。

 上がった顔。

 少しだけ、俺に近づいて。

「ふふ」と笑うきみは一番きれいに映る位置。


 ピントの合う位置を見極め、その中で笑ってくれるかわいい奥さま。

 俺の手を握り、照れたような表情。



「やさしく、してね」

「うん」



 一種の儀式のようなもの。

 膝の上で笑う彼女の肩を抱き、やさしく口づけをする。

 この一瞬が、緊張と、高揚と、様々な気持ちが交ざりあい、心地よくて好きだ。



 さあ、ふたりきりの夜のはじまりだ。



1.眼鏡を外して。

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