第28話 叢雲ーTOP GUNー 13

首が飛んでも動いてみせるわ


四谷怪談の悪役、伊右衛門が言う台詞らしいが俺はこの台詞が好きだ。


善でも悪でも構わねえ。生き汚く生き残ろうという執念が気に入った。


悪党の死は銃で心臓を撃ちぬかれた時か?


もしくは日本刀で首を斬られた時か?


違う、諦めた時こそ、自らの死を認めた時こそが本物の死だ。


俺が殺されてもいいと思う相手以外に殺されてやるつもりはない、負けるつもりもねえ。


零式の目の前に水の塊のような巨大な化け物が神を気取って俺を見下してやがる。


・・・神と呼ばれる奴が俺の死となるのか? それとも神が唯の人間である俺に撃ち堕とされるのか? おもしれえ、掛ってきやがれ!



天空にそびえ立つ城のように浮かび上がる叢雲の前に浮遊するガランデンドスは自身に向かって飛行してくる3機の飛空挺を察知する。


その星を自らを生み出した母星の姿に作り替える。


それがアナザーワンズ共通の望み、水神の唯一絶対の望みである


その行いを邪魔する者は誰であろうと許すつもりはない。


ガランデンドスは球体から体を引き延ばし水の槍を作る。




ブルーブレイザー零式のリボルバーカノンとブラックレインのバルカンが火を噴き、ガランデンドスに鉛玉が撃ち込まれてゆく。


それが神と人との闘いの狼煙となった。


ガランデンドスは水の槍を伸し、青と黒の飛空挺に振り下ろす。


零式はリボルバーキャノンで槍をすべて打ち砕く。


槍が砕けたその隙に大嶽が駆るブラックレインがバルカンを連射しながらガランデンドスに近づいた。


「旦那、さがってな!」


ドランクが吠え大嶽がブラックレインを止める。


「何だ! ドランク!」


「野郎、仕掛けてくるぜ、気をつけな!」


ガランデンドスの体がボコボコと沸騰したように激しく泡立てる。


泡から翼を生やした青色の魚の頭を持った生物が生み出される。


あの教会にあった天使像そっくりだ。


鱗の生えた体と猿に近い四肢、水掻きが付いた四本の指、コウモリのような翼を持つ。


大きさはあまり大きくは無くせいぜい小猿程度。


罰当たりかは知らないが、この生き物を称する言葉がないのでこの生き物をここではガランデンドスの天使と呼称する。


「何なの? なんか産んだんですけど!?」


青と黒のニ機の後ろを飛行するヴェスパーに乗っているブランは驚愕する。


「そうだ、これがアナザーワンズだ。奴らは世界の種。母星の生態系の記憶を再現し浸食するのがその生命の本質よ」


バレット、従者(バレット)、眷属(バレット)、弾丸(バレット)


産み落とされた天使はざっと一万匹以上


青色の天使は戦艦から撃ち出される弾丸のように一斉に零式とブラックレインに向かってゆく


零式とブラックレインは羽の生えた天使たちの群れに機銃を発砲する。


天使は機銃で粉々に粉砕されて青色の体液をまき散らしながら赤い海に墜ちてゆく。


しかし、数が多く全匹は当然、撃墜できない。


まるで蝗害だ。


零式とブラックレインのカメラに天使たちが張り付いていく。


「ちっ、前が見えねえ!」


「これが奴の狙いか!?」


前方が見えず、困惑する彼らに向かってガランデンドスは再び槍を伸そうとする。


しかし、その槍はビームの一閃で砕け散った。


「あんた達、感謝しなさい。命拾いしたわねー」


ブランはヴェスパーに付いている二本のマニピュレーターの掌部分に備え付けられたビームガンを発射して二人を援護する。


「たまには仕事すんじゃねーか」


「何? あんた、お礼ぐらい言えないのー?」


ブランは素直に礼を言わないドランクに頬を膨らませる。


「礼を言う。あと引っ込んでな、チャージは既に済んでいる」


「え、チャージって!?」


ドランクはニヤリと笑うと前方の群れに向かってツイン・アルトキュムラス・キャノンを構え、引き金を引く。


二丁の砲門から放たれた二つの強烈な光は途中で交わり巨大な一つの光の柱となって前方にいた天使の群れを一気に焼き尽くす。


一万匹以上いた天使の群れのそのほとんどを今の一撃で消し飛ばした。


「あんた、こんなもん持って何する気? 一人で戦争でも始めんの?」


「そういうのはハイディの奴に言ってくれ・・・、ぶっちゃけ、この威力に俺が一番驚いている」


やりすぎだろとドランクは少々震えた声でつぶやく。


ブランの頭ににっこりと微笑みながら敵艦をツイン・アルトキュムラス・キャノンで吹っ飛ばしているアーデルハイトの姿が浮かんだ。


護ると決めたものには溢れんばかりの慈愛を、自分の愛する人を傷つける者に対しては弾圧を。


護るべき相手がドランクならば彼女はその敵に対して一切の情け容赦なく鉄槌を下すだろう


彼女の気質が垣間見れるような感じがして思わずブランの背筋が寒くなる。


「姉御か・・・、マジ怖いわね、あの人」


「おい、雑談するのはそこまでだ。ここからが本番だぜ」


大嶽だけはこの場で動じること無く冷静にランチャーでターゲットに狙いをつけていた。


ーー今ならば、遮る物は何もあるまい


ブラックレインのランチャーから次々にロケット弾が放たれる。


計五発、ロケット弾は障壁無しにガランデンドスにすべて着弾し破裂し白い煙が周囲の空に舞い上がる。


煙が風で吹き流された後、ガランデンドスの水の体は液体ではなく、ゼリーに近い状態。


鳥もちのように体がゴテゴテに固まっていた。


ガランデンドスは動きが明らかに鈍く体を変形させる事ができないでいる。


「マジックなんかに使われる数秒で水を固めてしまう強力な水分凝固剤だ。水の体を持つ貴様にはたまらんだろう?」


フライ・ハイ作戦がうまく決まり大嶽はニヤリと笑うと後衛のブランに通信を繋いだ。


「ブラン! お前がフライ・ハイ作戦の詰めだ! 発射fire 発射fire 今、命を燃やせ!」


「了解!ってきゃあああ!」


ブランの悲鳴が響く。


「ブラン! どうした? 応答しろ!」


大嶽が叫ぶ。


「み、水が、動く水がいつの間にかコクピットの中に入っていてあたしの体の中に入っていくのよ!ああ、この、染みこんでくる!」


ブランは蒼白の顔つきで水を払いのけようとするが水は手を通り抜けて体に入り込んでゆく。


「やべえぞ、旦那!」


「奴め、最初から狙いはブランだったか」


大嶽の顔にも焦りが濃い。


この作戦の肝はもちろん、ヴェスパーに装備されたエラスムス・ナパームである。


エラスムス・ナパームはガランデンドスに類似したアナザーワンズに対抗するために、対立民族が作ったアクティブ・バーン・ナノマシンである。


ガランデンドスは肉体が一欠片残っていてもそこから再生することが可能であり、ツイン・アルトキュムラス・キャノンでも完全に消滅させられるかは疑問が残る。


対してエラスムス・ナパームはナノマシンの集合体であり対象物に命中すればナノマシンはその生物の全身に追跡、拡散すると一万度の温度で炎上し、あらゆる存在を蒸発させる。


それはガランデンドスを含めた液状生命体でも例外ではない。


ナパームはあの星から離れる時に、女王ネネから人類への信頼と友情の証として特別に二発賜ったもので、この一発しか太陽系連邦には残されていない。


絶対に外せない一発なのでブランを後衛にして前衛のドランクが陽動、大嶽が水分凝固剤で足止めし、奴が固まっているうちにナパームで焼く作戦だったのだが・・・


奴め、明らかに後方にいるヴェスパーに気づき、それこそが自分を倒しうる銀の銃弾シルバーブレットだと察知したのだ。


雲霞のような眷属バレットを使って目くらまし、その隙に体の一部を分離させて後ろからヴェスパーを襲わせたか。


「すまん、俺のしくじりだ」


想定外のガランデンドスの知能の高さに大嶽は悔しそうに奥歯を噛みしめながらブラックレインのコントロールパネルを拳で叩く。





・・・・・・・・・・・・・・・


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ガランデンドスの分身はブランの体内を土に吸われる雨水のように浸食してゆく。


神経を接続、精神に干渉、その後、体を自らの母星にいた人々の姿に変える。


旧来の方法で繁殖しかできない種族は敵対種族と抗争し、相手を殺し尽くす手段しかとれない。


しかし、自分は違う。


すべてを自分を祀ろう奉仕種族に変える、その力がある。


いかに自分に刃向かう武器を持とうとも心身ともに自分に従う種族に変えてしまえば殺し合う理由はなくなるし、また逆らう意思も持てなくなる。


すべての生命は自分に命を預けるべきなのだ。


そうすれば遙か彼方の母星のような原始の姿で皆、病むことも死ぬ事も無く永遠の平穏を享受できる


永遠久遠悠久の水槽、完全なる水族館アクアマリン、原始の楽園の実現


それこそがアナザーワンズ・ガランデンドスの唯一絶対の望みである。



赤い大地にガランデンドスは降り立った。


荒れ果てた荒野、どこまでも続く赤い土


空には満点の星空が広がっている。


そして何もない赤い大地には巨大な白い軟体生物のような体と九本の触手を持つ何かが寝そべっていた。


ちっぽけなガランデンドスはその巨大な生物を前に動けず佇むしかなかった。


ぎぎぎぎぎ・・・


音を立ててその生物の目が開かれていく。


金色の光を放つ二つのまなこはこちらをじっと見て・・・笑った


九本の触手がゆっくりと伸びてくる。


圧倒的な捕食者を前には被食者は何もできない、できないのでされるがままにされてしまう。


そう、呆れるほど長く生き続けたガランデンドスは動けなくなるほどの恐怖を産まれて初めて覚えた。


まるで抱擁のような優しく自分を包み込んでくれる触手に水神の分身はもしかして自分はその存在に歓迎されているのかもしれないと思った。


ーーそんなわけあるまい


ガランデンドスの分身は九本の触手に弄ばれるように握りつぶされ泥のように死滅した。



「おええええええええええええええええええ~!」


映画『エクソシスト』のワンシーンのようにブランは口から勢いよく嘔吐物を吐き出した。


青い色の吐瀉物がコクピットに散乱する。


口を羽織っている黒いコートで拭うと天使を再び生み出そうとボコボコ体を動かしているガランデンドスを睨み付ける。


「もう、ゲロインになっちゃったじゃないのよ! 神秘的美少女キャラのあたしのイメージ台無しじゃない。あんた、どーしてくれんのよ!」


そんなイメージねーよと通信を聞いていたドランクと大嶽は思った。


「おい、もう大丈夫なのか?」


大嶽は心配そうにウィンドウ越しに聞いてくる。


「食べ過ぎと同じよ、吐いたらすっきりしたわ!」


「無敵ですか」


大嶽は汗を額に垂らしながら言う。


ドランクは腕を組んでハッと鼻で笑い飛ばした。


「まあ、平気で石を喰う女が水あたりで死ぬわけねーよな」


「何よ、あんた、ちょっとは心配しなさいっての」


「・・・冗談はさておき、お前の手で引導渡してやれ」


「わーってるってーの!」


ブランはトリガーに指を掛け、エラスムス・ナパームの標準をあわせる。


「いっけえええええええええええええ!」


ブランの指が操縦桿の備え付けられた引き金を引いた。


砲門からエラスムス・ナパームが飛び出し、必死で水分凝固剤から逃れようと蠢くガランデンドスに向かっていく。




エラスムスとはすなわちセント・エルモの事である。


彼が祈ると嵐は収まり、帆柱の先端に青い炎が踊り出したとされる。


すなわち暗夜の海を進む船乗りの守護聖人である




ナパームが見事に命中し水神ガランデンドスの体を青い炎が走り抜けてゆく。


ギィヤアアアアアアアアア


耳をつんざく絶叫が黄昏の世界に響く。


ガランデンドスは体を焼き尽くす青い炎を纏いながら海へと降りてゆく。


火が付いた蛇のようにその身を激しく焼かれながら原初の海へ、冷たい水を求める。


哀れに惨めに哭きながら母なる海に救いを求めるその姿に、もはやガランデンドスには神としての威厳はなかった。


「無駄だ、そいつは唯の炎ではない。たとえ海に潜っても貴様を焼き尽くすまではその炎は消えることはないのだ」


大嶽は焼け墜ちる神だったはずの生き物に哀れみを込めて言う。


ドランクはツイン・アルトキュムラス・キャノンの二発目のチャージを再び始める。


「おい、どういうつもりだ? そんな事をしなくたって奴は死ぬ」


驚いた大嶽はドランクに尋ねる。


「俺は敗者を必要以上に苦しめて殺す趣味はねえんだ。せめてこいつで送ってやるのさ」


フッ、大嶽は笑みを浮かべる。


そうだった。この男にとって銃の前ならば神も悪魔も、どんな人間も、どのような人外も平等なのだ。


「ああ、そうだな。せめて敬意を込めて天に帰してやれ」


ドランクは水面にたどり着こうとするガランデンドスに照準を合わせる。


「あばよ。お前、強かったぜ。もしかしたら本当に神様だったのかもな」


ドランクの言葉は優しさと哀れみが込められていた。


引き金を引くと左右のツイン・アルトキュムラス・キャノンが二つの光の柱を放つ。


二つの光の柱が途中で一つに重なった巨大な光の柱は海を求めるガランデンドスの体を粉々に打ち砕いた。


バラバラになった水神の体は更に追撃を掛けるセント・エルモの火に焼かれ跡も残さず現世から消滅する。


後に残されたのは静かな波をたてる赤い黄昏の海だけだった。

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