第17話 叢雲ーTOP GUNー ②
「おじさんの座右の銘か。そうだな。俺、結構そう言うの色々あるんだが吉田松陰の『奪うことができないものは志である。滅びないのはその働きである』かな。人間、自由になる物はあまりないが自分の心に決めたことは一念守り通して生きてみたいもんだよなお互い」
俺は自分が神主している大嶽神社の境内を通り抜け、小さな竹藪を抜けて、神社の隣にある我が家の裏口にこそこそとたどり着く。
時計を見た。時計は夜中の1時を差している。
この時刻ならば婆は寝ている。
コンコンと裏口の扉をノックするとパパ?と扉の向こうからあくび混じりの声が聞こえる。
扉が開かれて黄色いパジャマ姿の我が娘、凜が顔を出した。
身長は154センチ程、髪は肩に掛るほどの長さに伸している。
美しい紫色の瞳のせいか少しクールな感じに見られがちな娘だ。
幸い顔は俺には全然似ていない。
歳は15歳で今年から高校に通いながら、この神社の巫女として神社の仕来りやら祝詞やら舞やらをババアからたたき込まれていて可愛そうだと思う。
あのババア、自分の娘は誰もこんな巫女なんて古くさくてダサいからと放棄した伝統をよりによって俺の娘に押しつけやがって
「すまん、寝てたのか?」
「ううん、HGのネオジオング作ってたから起きてた。できたらハイディにSNSで見せる約束しているんだぁ」
「やっぱりあの人、ああいう赤い機体が好きなんだな。俺はザクとかのが好きだが」
「ふぁあ~、お婆ちゃんなら大丈夫と思う。10時くらいに寝床にいったから」
「そうか、なら安心だな」
ババアは年の割には寝付きがいいから一度寝たら朝まで起きない。
「何が安心なのか、俊宗?」
裏口から銀色に輝く薙刀が飛び出して俺の目の前に突きつけられた。
「母上、息子を殺す気ですか!?」
俺はビビって高鳴る心臓を押さえながら薙刀の主を睨み付ける
この薙刀を持った寝間着姿の老婆は俺のお袋である大嶽玉女(おおたけたまめ)74歳である。
大嶽一族は代々神社の宮司であり、武家でもあったので我が母は武芸十八般を極めている。
俺が唯一この世で頭の上がらない女だ。
「殺しても死なぬようなヤツのくせに。ああ、酒臭い。こんな時間まで飲み歩くとは大嶽家の当主として、凜の父としての自覚が足りぬのではないかね」
「はあ、しかし、母上。男には仲間との付き合いという物がありましてね。賞金稼ぎみたいな仕事は情報収集も大切なんですよ」
「私はお前を言い訳するような男に育てた覚えはないつもりだよ。だいたいお主が神主としての仕事をしっかりしておれば賞金稼ぎなどで稼がなくともよいはずなのに。ああ、このままではご先祖様に申し訳が立たぬ」
「お言葉ですがね、私と凜だけなら神職の収入だけでやっていけるのに母上の食事を賄うには賞金稼ぎでもしなきゃ足りないんですよ!」
母上は火星に移住した日系人達の信奉を集めた全盛期の大嶽神社で育った女で贅沢病という物が抜けていない。
健啖家で食べるものは人の三倍は食べるし、それも豪華な料亭の飯を好んで食べようとするため大嶽家の台所は常に火の車だ。
「人のせいにするでない」
「いや、あなたのせいだよ」
「すーるーでーなーい」
これじゃあ74才児だよ
「はあ」
俺は酒臭いため息をつく。
「とにかく、私の部屋においで。大事な話がある。ああ、寒い。ここは冷えるでな」
母上はそう言うと家の中に引っ込んでいった。
何のだ?
俺はなんとなく嫌な予感がした。
こう言う予感はよく当たるのだ。
「遠野邦彦殿の事は知っているな?」
「そりゃあ幼馴染ですから。大学で宇宙生物の研究をしていると聞きますが」
「アプカルルという星に行ってから半年ほど帰ってこないそうだ。遠野の奥方とは老人会で世話になっておるのでな。連絡もせず帰らぬ息子の事を心配されていたよ」
アプカルル?知らない星だ。
本当にそんな星あるのか?また聞き間違えかなんかではないのか
「確かに心配ですが異星に行ってその星の生物を研究する仕事上、それが事件かどうかの判断が難しいじゃないですか」
「警察にもそう言われて相手にされんかったらしい」
ほら
警察だって暇じゃないし事件性が無きゃ動かないんだってば
「それで私にアプカルルとやらに行って遠野を連れ返してこいと。嫌ですよ、本当に仕事かも知れないし」
「息子の帰りを待つ母が可愛そうとは思わぬのか?」
「私だって暇じゃないんですよ。次の賞金首を探さなきゃならんのです」
「友達であろう?ええい!私はお前をそんな薄情な子に育てた覚えはないぞ」
「私は母上の奴隷じゃないっつーの」
「そういう事は奴隷みたいに働いてからいえ!そういえば」
母上は何かを思い出したようだ。
「一度だけ連絡があったようなのだが」
「それは本当ですか。ではやはり事件ではないじゃないですか」
「7日程前のちょうど今頃くらいの時間に電話が掛ってきたようなのじゃ。もう、遠野殿はとっくに寝ている時間なのだが深夜に見たこともない番号の電話が掛ってきた。普段なら取らぬが、遠野殿は息子からだという確信を持ったらしい。受話器を手にとって邦彦か?と尋ねたそうだ。しばらく電話の主は黙っていたが、お袋と、妙に低い声で言ったんだとか」
「他には?」
「いや、その言葉を言った途端、電話を切ってしまったらしい。本人の声とは違ったが母上は間違いなく自分の腹を痛めて産んだ我が子の声だと確信したらしい」
「・・・・・・確かに妙な話だな」
「どうだ、調べてくれる気になったか?」
「まあ、事件性は無いと思いますが、旅行がてら行ってみますよ」
「お土産よろしくね。できれば旨い物勝ってきてくれると母は嬉しい」
「本当に勝手なんだから、もー」
次の日になって大学のコンピュータにアクセス。
少し調べた所、遠野はとある水生生物の研究をしていたようだ。
そして、やはり、アプカルルという惑星は実在しており琴座、ベガとアルタイルの間に割り込むように存在していた。
あまりネット検索をしても情報が少ないが、陸地はほとんど無い水の惑星で、どうやら、地球にあった日本の昭和の頃に近い町並みが広がる田舎の惑星らしい。
特産物は水の惑星らしく海産物とアプカルル・キュウリと呼ばれるキュウリ似た野菜で主食にしているそうだ。あと何故か黄桜株式会社の支社があるので日本酒の黄桜が販売されているらしい。
あとリヴァーマン・ホテルという宿泊施設は温泉が出るとか
なるほど、風呂を上がりに日本酒を飲んで刺身でやるのも悪くない。
遠野は変わった男だから、おそらく研究に熱中しすぎて家や大学に連絡するのを忘れているだけに違いない。
探しに行くという名目で俺は一人温泉旅行を楽しむことにした。
そして母上から話を聞いてから3日後の朝、俺はアプカルルに旅立つことにした。
黒いジャケットに、グレイのズボン、ピンク色のシャツ、黄色いネクタイにトレードマークのサングラスを掛けて鏡の前に立つ。
自慢の口髭もなかなか決まっている。
「パパ、忘れ物はない?」
「ああ、ハンカチも財布も携帯電話も持ったぞ」
「そ、お土産買ってきてね」
「土産物っていってもな。ガンプラも売ってなさそうなすげー田舎だぞ」
「温泉まんじゅうでいいからさ、なんか買ってきてよ」
「キュウリとか買ってくるか、美容にいいらしいぞ」
「キュウリとかやめてよねー。私、あんまりキュウリ好きじゃないんだぁ」
愛娘と談笑しながら俺は旅行鞄を手にガレージに向かう。
ガレージには黒い飛空挺ブラックレインが駐車されている。
あくまで民間用でブルー・ブレイザー程のスピードや武装はないが、一応賞金稼ぎを生業としている者の飛空挺としてバルカン砲程度の武装は備えてある。
「じゃあ、お婆ちゃんの事は頼んだぞ」
「もう、そんなのわかってるよー。いいなあ、温泉なら私だって行きたいくらいだよ」
「よかったら今度連れて行ってやるさ」
「ほんと?約束ね」
俺は凜に手を振るとブラックレインのコクピットに乗り込む。
エンジンを掛けシステムを起動すると機体のモノカメラが赤く光る。
ブラックレインはゆっくり走り出すとガレージから庭に出て上空へと飛び上がる。
アプカルルまでスペースハイウェイを抜けて3時間程度
途中のサービスエリアで昼飯でも食うか、ソースカツ丼が旨いんだ
俺は涎を垂らしながら大気圏を越えて宇宙に出る。
ーーそして大嶽俊宗はこの後、音信不通になる。
その7日後、大嶽凜はホテル・ブロッケンベルクに訪れるのであった。
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