第13話 美少女はさぼりたい

 喉の痛みも一日寝たらすっかり取れている。きっと矢吹特製の生姜料理が効いたのだろう。あのイガイガするような違和感とはおさらばできたことに幸福を感じるぞ。


金曜日――俺たち学生にとっては一週間で最もモチベーションを上げて頑張れる日だ。この日登校すれば、土曜日日曜日と二日続けての休日が訪れるからな。

 案の定、クラスの奴らも皆テンションが高い。それに、俺達のクラスは五限目が体育、六限目が総合学活という最高の締めだ。要するに、めちゃめちゃ楽だ。

 午後の授業が数学やら英語のように頭を回転させる科目だと、正直面倒だし怠い。そう考えると、金曜日の五、六限目は最高だ。


 四限目終了の鐘が鳴ると、俺たちは背中を伸ばしたりとリラックスする。

 

「んー、つっかれたー。飯食おうぜ」


「今日は一人でゆっくり食べようと思っていたのだが」


「今日はじゃなくて、今日もだろ。お前は殆ど一人で食べてるぞ」


 俺たちは可笑おかしそうに笑いながらたわいのない会話を交わす。

 

 そんな時、ふと矢吹の姿が視界に映ると矢吹はクラスの女子生徒四人と机を繋げて弁当を食べていた。

 そんな矢吹を見て俺は、矢吹がその時見せていた笑顔になんだか一瞬、違和感を覚える。最近話すようになって、最近伊織たちと友達になって近くで矢吹の笑顔を見ていたからなのか、何故だか妙な違和感を感じる。あれは心から楽しんで笑っているのだろうか。それとも……

 

(気のせいか……)


「どうした?翔」


 矢吹に気が取られてぼーっとしていると伊織がひょいっといきなり目の前に白米を口に含ませた顔を寄せてくる。


「近い近い。ただいつも通りぼーってしてただけだ」


 昼飯も十五分程度で食べ終わし、その後俺は寝る。伊織がいることを差し押さえて寝る。昼飯後の昼寝は最高だ。なんというか、とにかく『快楽』の二文字がしっくりくる感覚だ。

 伊織は俺が寝て話し相手がいなくなり、舌打ちをしてから別の友達の所へ行った。


 昼休み終了の鐘が鳴ると、女子は水着袋を持って更衣室へ向かい、男子は教室で着替え始める。


「今日だるいなー。今日から水泳だろ?俺泳げねーよー」


 気だるそうに口にしたのは伊織だ。伊織は運動神経がよく基本的になんでも出来るが、何故か水泳だけは昔から出来ない。あるいみギャップ萌えだ。


「お前が泳げないのって本当に意外だよな」


「泳げる奴おかしいだろ!クロールだって、あれ息継ぎする時顔出て横向くけどよ、全然できねーよ。めっちゃ口に水入ってくるし耳にも入るし」


 それは流石にセンスのセの字も無いな。


 水着に着替えた俺たち男子は、女子よりも一足先にプールに足を運んでいた。


「くぅー!今年も矢吹さんのスク水姿見れるなんてラッキーだぜ!萌える萌えるぅぅ!」

「あの顔から放たれる豊満なパイオツは半端ねぇよな!俺たちの理想の体型だよな!」

「ボンッキュッボン!」


 クラスの大半の男子は矢吹の水着姿に見る前から興奮状態だ。この時期になると、毎年矢吹の水着姿を待ちわびている男子が多く現れる。

 

 俺は今まで特に女子の水着姿等という物には一切興味がなかった。今まで、そして今もだ。


 そんな男子共が興奮している中、女子たちもやって来た。


 あれ?矢吹がいない?さっきまで俺と伊織の近くの席で飯食ってたよな?


 矢吹の水着姿を見れることに胸を膨らませていた奴らもテンションが下がっていた。あからさまだなおい。


 準備体操を終えた後には『地獄のシャワー』と呼ばれる体の汚れを落とすために通らなくてはいけない冷たいシャワーを浴びた。寒すぎる、鳥肌やべーよ。


 寒気を感じた俺は途端にトイレに行きたくなり、先生の許可を得てから更衣室の横にあるトイレに行った。


「ふぅ。スッキリした」


 体が冷えきった状態での小便は妙に気持ちがいい。というどうでもいい報告を胸の中で一人呟いていた。


 事を済ませた俺は水着の紐を結びながら外の出る。

 するとそこで先程プールにいなかった矢吹と俺はバッタリ遭遇した。


「あ、阿良田さん」


「あ、じゃねーよ。なんでプール行かないんだ?もう始まってるぞ」


 俺が問い掛けると、矢吹はいたずらっぽい笑顔を浮かべてこう言った。


「……阿良田さん。授業、私と一緒にさぼっちゃいましょうか」


 そう言って顔を近づけられた俺は顔の温度が急上昇するのを感じる。


「さ、さぼるって……俺先生にはトイレに行ってくるって伝えたし、無理だな」


「大丈夫大丈夫!お腹が痛くて五十分間トイレから出られませんでしたって後で伝えておけば大丈夫です!」


 本当かよそれ。

 でもまぁ正直に言って、プールは面倒だな。今回ばかりはさぼってもいいか。


「まぁ、なんとかなるなら別に一緒にさぼっても平気だぞ」


「やった!」


 矢吹は小さくガッツポーズをとって喜んでいる。ガッツポーズをとる矢吹も可愛いなおい。それに、今までなんとも思ってなかったけど、矢吹のスク水姿やばすぎるな。

 俺は初めて、男子共が喜ぶ理由を体験した気がする。


「それじゃ、あそこの倉庫に行きましょうか」


 俺はプールの用具入れとして使われている倉庫に連れていかれた。


……ん?待てよ。


 スク水の女と二人きりで小さな倉庫ってやばくね!?


 俺は……色々なことを想像してしまった。




 




 


 


 


 


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