第8話 美少女は手作り弁当を食べて欲しい
「翔~、俺と明香里で弁当食べるんだけどお前も食うか?」
「ちょ、なんで誘ってんの!?」
本人の目の前でそんなあからさまに嫌味を剝き出しにするやつがいるか。
まぁ実際俺も一緒に食べる気はないのだが。
「俺はいいよ。カップル同士仲良く食べてるんだな」
「食わないのかよ。んじゃ!お言葉に甘えて仲良く食べさせてもらうよ!」
伊織はさわやかな笑顔を浮かべながら明日香とともにどこかへ向かっていった。同時に明日香はべーっと舌を出して去っていった。
そして俺はいつもの昼飯セットだ。コンビニで買ったハムとチーズのサンドウィッチにツナマヨおにぎり、そしてコーヒー牛乳といったいたってシンプルな昼飯だ。
どれも自分の好物なだけあって、毎日食べても飽きない。しいてメニューが変わるとすれば飲み物だろう。
昼飯はいつも十五分程度で食べ終わる。正直お腹の満たされた感はない。満腹になると五時限目に睡魔に襲われるため満腹状態になるのを避けているからだ。
「あのぉ、阿良田さん」
俺はコーヒー牛乳のストローを
矢吹だ。
「なんだ?」
俺が問いかけると矢吹は何やら恥ずかしそうにながら後ろに回してあった手を持ってきた。
「昨日のミルクティーのお返しです。お弁当を作ってきました。受け取ってください。勿論、拒否権はありませんよ」
……ん?これってもしかして。
「これは何なんだ?」
「見ての通りお弁当です。いつも同じ昼食なので作ってきました。体調崩しそうだし」
やはり弁当か。拒否権はない……か。
そしてこの時の男共の視線はここ最近では確実に一番の殺意を含んでいた。
そりゃそうだろう。学校一の美少女からぼっち生活を好む男子生徒が手作り弁当を受け取ろうとしているのだから。
それに、いつも俺の昼飯を見ててくれたって……さすがだな。周りにも気を配っているとは。もう完璧じゃねーかよ。非の打ち所がないのか!?
「ありがたいんだけど、もう腹いっぱいで……」
勿論嘘だ。満腹なわけがない。なんならその弁当なら余裕で食べられるだろう。これは拒否はしていない。ただ、お腹いっぱいだから食べられなんだっていうことであって拒否はしていない、仕方のないことだ。
「嘘ですよね。たったそれだけで満腹になるとは到底思えません。そんなに少食なら野菜マシマシ濃厚豚骨ラーメンを食べられるはずがありません。……それに、お腹鳴ってますよね」
なんとタイミングが悪い!ここで腹が鳴っては満腹ではないということがバレてしまうではないか!それに観察力すごいな。まさかここまでとは……。
もう噓をついても無駄だろう、通用しなさそうだ。ここは
「わ、分かった、ありがたく食べさせてもらうよ。ありがとう」
矢吹は嬉しそうに優しい笑みを浮かべて首を頷かせる。
「早く食べて下さい。昼食の時間がなくなっちゃいますよ」
おいおいおい、ますます男共の視線が鋭くなってるんじゃないかこれ。矢吹はなんとも思わないのかな?こんな俺に弁当を渡したりして。
「じゃ、じゃあ、いただきます」
「どうぞ」
矢吹は空いている前の席に腰を下ろす。
作ってくれた当の本人の前で食べるのは恥ずかしすぎるだろと思ったが、俺はその恥を胸に留めて豚肉でアスパラガスを巻いたおかずを一口食べる。
「美味い……なんだこれ」
俺は矢吹の弁当に一瞬で虜にされたのだ。甘辛のタレで味付けされた豚肉のアスパラ巻きを一個食べると箸が止まらなかった。
「美味しそうに食べていただいてよかったです」
俺は矢吹の包まれるような笑みに気づき思わず口いっぱいの白米を吐き出しそうになった。ついつい弁当に夢中になっていた。
「すごく美味かった。料理上達したのか?」
「そうですとも!クッキーしか作れないと思っていたら大間違いですよ」
矢吹は誇らしげに胸を張っている。
まさかこの間クッキーを初めて作った人がこんなにも美味しい弁当を作れるようになるとは想像していなかった。
「ごちそうさま」
「お粗末さまでした」
俺はしっかりと矢吹に感謝の意を込めて挨拶をした。
「それじゃあ弁当箱は明日洗って返すから」
すると矢吹は首を横に二回ほど振る。
さすがに作ってもらいっぱなしでは申し訳ないだろう。
「いいですよ。私が勝手に作ってきたんですから、わざわざ阿良田さんが洗って返さなくても……」
「いいんだ。俺に洗わせてくれ。俺的には洗わせてくれた方が嬉しいかな」
俺がそう言うと矢吹は仕方なさそうに肩を
「……分かりましたよ。では、お願いします」
「喜んで洗わせていただきます」
そして昼休み終了のチャイムが鳴ると同時に俺たちは解散した。
その後の授業では満腹になったせいか、五限目、六限目と続けて居眠りをしてしまった。
夢の中では今日矢吹が作ってきてくれた弁当に入っていた料理が出てきたことは言わないでおこう。
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