第6話 美少女と動画配信アプリ
心地の良い朝だ。昨日はラーメンを食べて腹を満たして風呂を出たらすぐに眠りについてしまったから朝の目覚めがいつも以上に良い。
朝食を済ませ洗顔等の支度を整えた後、軽い足取りで学校へと向かって行った。
学校に着くと何やら教室が騒がしかった。一体何の騒ぎだ。
「おい、それマジ?」
「マジマジ!めちゃめちゃ可愛くてさ!俺コメント返信来たし!」
「うーわ羨ましい!ズルいわー」
話の内容的に可愛くて有名な誰かにコメントを返してもらって喜びに浸ってる男の自慢話と言った所だろうか。本当に男は単純な生き物だな。
「よう翔。見ろよ見ろよ~、めちゃめちゃ可愛くないか?これで俺らと同い年だぜ?」
颯爽と寄ってきて俺の肩に手を回してきたのはいい伊織だ。スマホの画面には超が付くほどの美少女が映っていた。
「いきなり飛びつくな、重い。何なんだ?そのアプリは」
「なんだ翔、知らないのか?最近俺たち若い奴らの間で流行ってる無料動画配信アプリ『Tik Talk』ていうんだ。ライブとかを通してその人本人とも話したりできるんだぜ!」
「へぇ、そうなのか」
うん、勿論知っている。ぼっちの俺がこんなにも一人の時間を過ごすのに適したアプリを知らないはずが無いだろう。ここで知っている風に話たら色々話に巻き込まれて面倒くさくなりそうだからあえて知らないふりをしていただけだ。
「それでそれでな、この子は『Tik Talk』界の四天王ってy呼ばれているうちに一人の……」
『徳川綱吉』だ。勿論知っていることだ。俺は心の中で答えていた。
現役女子高生にしてフォロワーは五十万人超え、いいねの数は百万を超えている超人気Tik Talkerだ。その整った可愛すぎる顔は世の男子の心を鷲掴みにしている。
「いやー!Tik Talkerマジ半端ねぇ!こんな子がうちの学校にいたらモテモテだろうな~。あ!なあなあ、矢吹さんも絶対バズると思わないか?やってみるよう聞いてみてくれよ」
「嫌だよ面倒くさい。別に俺はやって欲しいなんて思ってないしな」
断固拒否すると伊織は悲しそうな顔を浮かべていた。
やって欲しいのなら自分で直接言うんだな。
「阿良田さん、おはようございます」
気さくに挨拶をしてくれた人は矢吹琴葉だ。矢吹はいつも通り天使の笑顔を浮かべていた。矢吹が話すと絶対に男子が反応し、まるで女神を讃えるかのような視線を送っている。
「お、おう」
俺が挨拶を返すと、やはり獣の視線を感じる。しかし伊織だけはニヤけながらこちらをまじまじと見ている。
「阿良田さん……今日の放課後、ちょっと私に付き合ってもらえませんか?」
矢吹は俺の横を通るついでに、耳元でこう囁いた。他の人に変に思われないように自然に言ってくれたのだろうか。
そしてこの日の授業は珍しく一睡もしないで乗り切ることが出来た。早寝することが如何に良い事なのかを実際に思い知らされた。
そして放課後になると、学校の門前に綺麗な赤茶を輝かせた美少女が凛とした表情で立っていた。
門前に向かっている途中に目が合うと矢吹は軽く手を上げていた。
「えっと、今日はTHE青春っぽく河川敷に行って風に当たりながらゆっくり話しながらお茶でもしましょうか。私憧れてたんですよね、こういうアニメとかドラマでよく見る光景に」
今日は家に帰って新作の漫画を読もうと思っていたが、河川敷でゆっくりすることに俺も少し憧れを抱いていたため、珍しく嫌々受け入れることはなかった。
コンビニで飲み物とお菓子を少し買った後、俺たち二人は河川敷で時間をつぶしていた。
それにしても実に気持ちがいい。早寝して体調もベストなため河川敷に吹く風がとても気持ちがいい。河川敷で風に
「思っていた通り河川敷でこうするのって如何にも『青春』って感じがしますね。それに男の子と二人きりなんて……もっと青春感が強いですしね」
そういいながらこちらに笑顔を向ける矢吹に、俺は静かに少々の胸の高鳴りを感じていた。
「確かにいいモノだな。よし、気に入った。今度一人で来てみるか」
「ダメです!その時は私も一緒についていきますよ。一緒にいる時間を多くしないと阿良田さんを落とすのに時間がかかってしまいますからね」
その笑顔はゾクッと鳥肌が立つような小悪魔の様な笑顔だった。一体どれだけの魅力を持っているんだ。
あれこれ話していると話題は今日学校でも上がっていた『Tik Talk』の話になった。どうやら矢吹も流行に乗っているようだ。おすすめの欄にはやはり四天王が度々出てくる。
「本当に、Tik Talkの女の子達ってどうしてこうも皆可愛いんでしょう。皆顔面国宝級じゃないですか?男子は男子でイケメンですし。神様って不公平ですね」
「それをお前が言うか!?」と思わずツッコミを入れたくなるセリフだった。
むしろTik Talkの女子と同等、いや、それ以上に可愛いだろ。自分の顔に一体どんな偏見を持っているんだろうか。確かに自分で自分の顔を評価するのはあまりないが、ここまで出来上がっているのであれば自覚はあっても可笑しくないだろう。
まぁ今はそこに気を置かなくていいだろう。
Tik Talkを一緒に見ているとおすすめに出てきた『徳川綱吉』に俺は思わず口をこぼした。
「本当に可愛いな。同い年なのか……」
すると何やら隣から視線を感じる。
目を向けると矢吹が頬を膨らませて眉をひそめながらこちらを見ていた。
「ぶーぅ。何ですぐ隣に阿良田さんを落とせるよう頑張ってる子がいるというのにそうやって目の前で他の子に見惚れてるんですか」
「いや、違うよ。勿論矢吹だって……」
「矢吹だって何ですか?」
顔を近づけて問い掛けてくる。いやいや近いな。
「その……矢吹も十分に可愛いと思うぞ、うん」
その瞬間、矢吹の顔がパァーッと明るくなるのを感じた。
その後矢吹はしばし嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
それにしても一体どうして少し機嫌を。
もしかしてだけど、これがいわゆる「嫉妬」なのか?
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