第2話「接近」
理科の授業。クラスでの席とは変わる。実は、2年になって最初の理科なので、誰と同じ席になるかは知らない。
「えっ千南さん......!?」
「あら、同じ班じゃない。よろしくね神尾くん」
千南さんと同じ班になった。
千南さんは、同じクラスではあるものの、夏休みまで関わったことがなかった。それなのに、なぜ急接近してきたのか。俺にはよくわからなかった。まあでも、特に悪いことはないようだし、しばらく関わってみることにした。
最近、新人教師で入ってきた先生が理科を担当するらしい。
「ねえ神尾くん、なんかあの先生すごいぎこちないわね」
さすがに新人教師なので結構緊張しているようだ。
「うん。まあでも、新人だからしょうがないんじゃない? 全然関係ないけど、この先生なんかインドカレー屋にいそうな顔だね。」
「ほんとに全然関係ないわね」
「ごめんなさい」
なんだか、インドカレー屋さんにいそうな顔なので、バイト経験があるかめちゃくちゃ気になる。先生がぎこちないのもあったが、インドカレーのせいで授業には集中できなかった。
「お腹すいたなぁ。インドカレーのせいだよ」
「いつまでそれを引っ張るわけ? いいかげん、授業に集中したらどう?」
「ごめんなさい」
今日何回千南さんに謝ったかわからないが、ここでチャイムが鳴った。
すると、轟音が校舎に鳴り響いた。そう、毎日お昼の時間になると、「昼食ダッシュ」と呼ばれる購買部への集団がダッシュする光景が見られる。
「すごい音だなぁ。まあ今日は弁当だし、関係ないけどね。」
「行くわよ」
「ええっ!? 今日俺弁当だよ?」
「ほら、行くわよ」
千南さんは、俺を強引に購買部に連れて行った。
そのとき千南さんの後ろに居てふと思った。千南さんはいい香りがする。俺は香水について詳しくないので、会社の名前1つだけしかわからないが、なんというか桃のような、ほのかに優しい香りがする。
「なにボーッとしてるの? 行くわよ?」
「わっ、ごめんなさい」
階段を下って、購買部に到着した。
「あーあ。もう全然ないじゃないの」
「うう。弁当食べたかったのに」
「あなたのせいよ。パンを奢りなさい」
「ごめんなさい、奢ります」
「って言うのは冗談よ。さあパン買えたし、いきましょ」
なんというか、千南さんがめちゃくちゃ可愛く思えた。俺が港南ちゃんなのが好きなのを知っているのに、めちゃくちゃ接近してくる。どうする、神尾? 俺は本当にこれでいいのだろうか。
千南さんと知り合ってまだ3時間ほど。初めて近くで一緒にご飯を食べることになった。
「千南さん、それ何のパンですか?」
「クリームパンよ。購買部のクリームパンは、クリームが多くて、コーヒーと合って最高なのよ......」
「へぇ......今度買ってみます。」
「ところで、神尾くんはコーヒー飲めるの?」
「えっと、結構苦手ですね」
「じゃあ飲んでみなさい。私のコーヒーを」
「ええっ! 流石にまずいですよ!」
「あら、私の選んだコーヒーがまずいとでも?」
「そうじゃなくて、ちょっとそれは!」
「なにを嫌がってるの? 嬉しいでしょ?」
「うぅっ!」
千南さんが口付けたコーヒーを無理やり飲まされた。これは間接キスというのだろうか。いや、正真正銘そうだろう。このままでは、本当に千南さんのことが好きになってしまう。俺は港南ちゃんのことが好きなのに。
今、とてももどかしい。港南ちゃんが好きだったのに、千南さんにチヤホヤされて、本当にもどかしい。これが葛藤なのか。初めてこの感覚がわかったような気がする。嬉しいようで辛いような、なんだか頭が混乱してくる。
「どう? おいしい?」
「お、おいしいです」
「なによ、なんかまずそうに言うじゃない」
「だって」
「言ってごらんなさい」
「間接......キッ」
「はーい授業始めますよー」
ジャストなタイミングで授業が始まった。
千南さんは少し席が離れているので、教室移動するときしか喋れない。
「神尾くん! なんか千南ちゃんと話してたでしょ!」
「う、うん話してたよ」
「なに話してたの! わたし気になる!」
「えっとぉ、あの、その......」
まずい。港南ちゃんが追求してきた。このままだと、港南ちゃんに嫌われてしまう!
「はっきり言って!」
「一緒にご飯食べてただけだよ。他は何もしてない」
「なら許す!」
「なにを許すの......」
なんとか、その場をしのいだ。本当に危なかった。ただ、港南ちゃんは僕のことが気になっているような気がした。気になってない人に何を話してたか追求するわけがないので、これは脈アリ、つまり俺に興味があるのかもしれない。
もうこの時点で相当濃い1日だが、まだお昼だ。午後はどんな風になるのか。楽しみでもあり、怖くもある。
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