第1話「動揺」
「やばい! 遅刻する! 急がないと、授業に遅れちまう......」
俺の名前は「神尾 桜花(かみお おうか)」青線(せいせん)学園の2年生だ。
名前のせいか、よく女性だと間違われるが、正真正銘男だ。
「なんとか到着! ってあれ? 誰もいないじゃないか」
着いたのはいいが、俺が見る限り教室には誰もいなかった。どうやら時間を間違えたらしい。
「マジか。しかも1限目から数学か。頭が冴えない朝に一番嫌いな教科とかやめてくれよ......昨日アラームのセットをミスってこんなことになったし、ほんとついてないなぁ。」
これから始まる嫌な授業で落胆していると、扉の方から声が聞こえてきた。
「おっはようございま〜す!」
先ほどの憂鬱を吹き飛ばすほどの大声が聞こえる。まだこんな時間だし誰もいないと思ったのだろうか?
「この声は......」
ただ、聞いたことのある声だ。しかも、気分が上がってきた。もしかして...
「港南ちゃん!?」
扉の方を向いて誰だか確認する。
その声の主は、俺が片思いをしている隣の席の「港南 中央花(こうなん ちゅうおうか)」だった。
港南ちゃんは、1年生からずっと仲がいいのだが、高校で一度も彼氏ができたことがないらしい。あんなに可愛いのに、なぜなのか。 モテすぎて、恋愛を自粛してるのか? それとも、恋愛が下手くそなのか? 考えれば考えるほど頭がこんがらがる。
「あれ?神尾くん、今日珍しく早いね!」
「おはよう港南ちゃん! アラーム早くしすぎちゃってね。」
「ねぇねぇ、何か気づいたことない?」
気づいたこと? 俺は昨日の彼女と今日の彼女を照らし合わせる。服装は制服だし、整形はそもそもありえない。化粧はそもそも知識がないので何とも言い難いが、強いて言えば、髪が少し短くなった気がする。
「もしかして、髪切った?」
「よくおわかりで! さっすが~。てか、下の名前で呼んでもいいよ?」
「ごめんごめん。けど、ちょっと馴れ馴れしすぎないか?」
「いいのいいの、別に嫌じゃないでしょ?」
「お、おう......」
そう、港南ちゃんはいつも馴れ馴れしすぎて、よくカップルかと間違われるが、全くもってそんな関係は持っていない。栗毛のさらさらしたツインテールで、学校でアイドル並の人気を誇る女の子なのでもちろん関係は持ちたいに決まっている。
「ちーっす! 桜花ちゃ~ん!」
「女じゃねえよ! ......くんの方がまだマシ」
いきなり俺をちゃん付けで俺をよんできたのは、「弘明寺 聖也(ぐみょうじ せいや)」
1番の友達でもあり、ライバルでもある。あいつも絶対に港南ちゃんを狙っている。
「聖也~ 何か気づかない?」
「あっ、髪型がマイナーチェンジしてる!」
「何その言い方~もっと言い方あるでしょ」
港南ちゃんは、誰にでも馴れ馴れしい。だからこそ、誰かに取られそうで、結構不安だったりする。
「はい、一限始めますよ」
「うわっ、またあの先生!?」
「神尾くん、何か言いましたか?」
「いや、なにもいってないです」
俺のクラスの担任、仲町台先生。先生なのにやたら話に入ってくる。俺としてはめちゃくちゃ怖い。
そんなこんなで、いつもの学校生活が始まった…
「今日も授業始めますよ〜」
数学の授業が始まった。正直、数学は一番苦手で、いつも居眠りしそうになる。
にしても、なんだか今日は視線を感じるな......本当に何なんだろうか。
「神尾くん」
「んぁぁ! はい! 何でしょう?」
「また授業聞いてなかったの? 本当授業態度悪いわね。」
今日はなぜかすごく集中できない。
青線学園は、偏差値がとてつもなく高いわけでも低いわけでもないので、相当変なことしない限りは大丈夫だ。ただ、さすがに居眠りしすぎると成績と単位が危うい。
妙だ。本当に妙だ。今日は視線をすごく感じて気持ち悪い。
「はい、これで1時間目は終わりね」
気がつけば1限の授業は終わっていた。
「神尾くん?」
「えっと〜、あなたは......? 名前をど忘れしちゃった。ごめんなさい」
「千南零よ。クラス一緒なのに知らないとか。」
「あっ千南さんかっ! ごめん! ボーッとしてた!」
「はぁ、港南ちゃんに嫌われちゃうわよ〜?」
「えっと、港南ちゃんに嫌われ? 何で知ってるんですか?」
「そんなのあなたがあの子といる時の対応みてたらわかるわよ〜」
「うっ」
実は俺が港南ちゃんが好きなことは、誰にも言ってなくて、ばれてるなんて思いもしなかった。この人は、千南 零(せんなん れい)。学級委員長をしているので、同じクラスの男子たちにはめちゃくちゃ恐れられている。ただ、港南ちゃんの次ぐらいに人気が高いメガネ系女子だ。
ただ、何でばれているのか? 対応見てたらわかるっていうのは建前で、他に理由があるのではないかととても疑ってしまう。
まあでも、これは気のせいであると信じたい。
「2限始めるわよ〜」
引き続き仲町台先生の授業。俺はめちゃくちゃ恐れているが、結構人気は高く、お姉さんっぽいので、クラスの一部で「おねーちゃん」って言うネタも流行ったりしている。友達の弘明寺もその一人だ。
「弘明寺くん? まだ問題全然解けてないじゃないの?」
「ごめんなさい、おねーちゃん」
「おねーちゃんじゃないの、私先生なのよ〜」
「神尾くんは寝てるんですか?」
「うっ......ごめんなさい。おねー」
「あなたには言わせないわよ」
恐れているのにはもう一つ理由があり、なぜか僕にだけ対応が悪い。なぜなのか。いつも数学で寝ているからと言うのもありそうだが、それだけでこんなになるとはちょっと考え難い。
2限が終わり、休憩を挟む。
「なんだか今日調子悪いなぁ......」
「神尾くん、今日元気ないね。あの仲町台のせいかなぁ?」
「港南ちゃん! 港南ちゃんの声聞いて元気出たよ!」
「どういうことなの? 私の声で元気出るって......?」
「いや、あの、その」
「そんなことより、次理科だよ。教室移動しないと!ほら、一緒にいこ!」
「あっ!忘れてた......! 港南ちゃん! いつもありがとう」
「何急に感謝して〜。よくわからないよ〜」
港南ちゃんの声で元気が出た。港南ちゃんはパワースポットなんじゃないかと錯覚してしまうほどパワーをもらった。ありがとうとしか言いようがない。
そうこうしてる間に、3限、理科の授業が始まった。
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