あの頃よりも

ダブルス

第0話 僕と君

あの頃に戻りたいと思うことがよくある。自分でも記憶が曖昧になっている程遠い昔の事なのに、ふとした拍子に僕の脳裏に思い出される。

あれはいつの事であっただろうか。僕のつまらない日常に色が着き始めたのは、

いつからであっただろうか、世界が変わって見えたのは、




そしていつからだろうか、もう戻れないと分かっていても、ふとした拍子に思い出してしまうようになったのは。



彼女と最初に出会ったのは、近所の神社に参拝しに行ったときであった。神社といってもおかしなところで、鳥居と狛犬はあるのに社がたっておらず、そこには一本大きな木があるだけであった。

いつもはなんとも思わないのにその日はなぜか行かなければならないと思ったのだ

駆り立てられるように僕は家から飛び出し、学校とは逆方向の道を走っていった。その辺りでは人の気配は全くなくここだけ時間が止まっているように感じられた。

あまり手入れがされていない鳥居をくぐるとそこは、僕が知っている神社と違っていた


色とりどりの花が咲いており、周りは木々で囲まれており、そこだけが特別な場所のように見えた。

今思い出して見ると本当に特別な場所だったと思うのだが。

そこで彼女が一人で泣いていたのだ。僕はその時なんと言っただろうか、


確か



「君、こんな所でどうしたの?名前は?暇なら遊ばない?」



って馬鹿なことを聞いたはずだ。今の僕が言えばナンパかなんかと勘違いされてるはずだが、今思うと本当に可笑しい話しかけ方だった。


すると彼女はこっちを向いて驚いたように濡れたまつ毛を震わし、目を大きく見開いた後、


「うん!」


って輝く笑顔で答えたんだ。その笑顔に僕は顔が赤くなる気がした。彼女は気にしていなそうであったが。


その日から僕は彼女とそこで遊んだ。


とても輝かしい日々であった。僕は彼女とたくさんの事を話した。例えば、彼女は親の転勤で近くに引っ越してきていたこと。友達と別れた悲しさで泣いていたこと。お父さんの転勤で行った様々な都市のこと。好きな食べ物。とりとめのないことを僕たちは話し合った。いつも遅くまで遊んで、話しているものだからよく親が迎えに着て怒られて、そこでまた二人で笑い会ったのだ。



しかしそんな日々も彼女の父親の二度目の転勤で終わりを告げた。彼女はあの時すごく泣いていた。あまりにも泣くので、僕は最初泣くものかと涙を堪えていたのに結局つられて泣いてしまった。


その後、彼女とは会っていない。だけど何時も不意に彼女のことが思い出されるのだ。

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