空の色

雨世界

1 今日もいっぱい、お話をしようね。

 空の色


 プロローグ


 空はなに色をしているのかな?


 本編


 今日もいっぱい、お話をしようね。


 その部屋は、真っ白な部屋だった。

 天井も、壁も、床も、たった一つの出入り口である小さなドアも、全部が全部真っ白だった。

 その真っ白な部屋の中には、小さな背もたれのある、やっぱり真っ白な椅子が一つだけ置いてあった。

 その真っ白な椅子の正面の壁には大きな水槽のようなディスプレイがあった。(ディスプレイは真っ黒な色をして、沈黙していた。その真っ黒なディスプレイだけが、この真っ白な部屋の中で、ただ一つだけ違う色彩をしていた)

 真っ白な椅子の上には、一人の女の子が座っていた。

 真っ白な色をした女の子だ。

 その女の子は、肌の色も、腰のあたりまである長い髪の毛の色も、手も、足も、顔も、きている洋服も(真っ白なワンピースだった)すべてが真っ白な色をしていた。

 その真っ白な女の子の瞳の色も、真っ白な色なのか、あるいはそうでないのかは、今のところはわからない。

 なぜなら女の子は眠っているのか、ずっとその目を閉じていたからだった。

 その女の子の目元と頬には、女の子が眠りながら一雫の涙を流した跡がはっきりと残っていた。

 ……それから、その真っ白な部屋の中でどれくらいの時間がすぎたのだろう?

 ぶん、と言うコンピューターの起動する小さな音がして、真っ黒だったディスプレイに真っ白な人工的な光が灯った。(部屋の中は完全に、そのすべてが白色に染まった)

 それと同時に、ずっと目を閉じていた真っ白な女の子がその目をゆっくりと開いていった。

 女の子の目は、青色だった。

 まるで、深い海の色のような、あるいは、高い空の色のような、……そんな澄んだ青色の目をしていた。

 女の子は椅子の上からその目だけを動かして自分の正面にある、光が灯ったばかりのディスプレイを見た。

 でも、コンピュータの起動音がして、動き始めたはずのディスプレイには、真っ白な光が灯っただけで、そのほかには、とくになんの変化も起きてはいなかった。(まるで、そこは空っぽの空間のようだった)

 女の子は少しして、その視線をディスプレイに向けたままで、自分の手が、指がゆっくりと動かすことができることを確認すると、その次に、自分の両足が同じように動かせることを確認した。(女の子は裸足だった)

 それから真っ白な女の子は椅子から降りて、真っ白な床の上に両足をつけて、自分の意思と力で、大地の上に立ち上がった。

 でも、女の子はそれから一歩を歩き出そうとして、真っ白な床の上にばたんと倒れこんでしまった。

 どうやら女の子はまだ、自分の体を動かすことに、あまり慣れていないようだった。

 それでも真っ白な床の上に時間をかけて立ち上がった女の子は、今度はゆっくりと慎重にその小さな両足を動かしながら、真っ白な部屋の中にあるたった一つの出入り口である小さなドアに向かって移動を始めた。

 そして、ドアの前に到着すると、女の子はゆっくりとその指を使って、そのドアを開けた。

 ……小さなドアの外の空間もやっぱり真っ白な色をしていた。

 そこにはただ、永遠と続いている真っ白な色だけがあった。

 女の子はその真っ白な風景を少しの間、その場所から眺めたあとで、ゆっくりと自分の背後を振り返った。


「……ばいばい」

 ……かすれた声で(でも、その声はとても美しい音色をしていた)女の子は、無表情のままそういった。

 ……女の子の海のような、あるいは空のような青色の目の視線の先にある、真っ白なディスプレイに変化はない。

 それから女の子は正面を向いて、ゆっくりと歩き出して、その真っ白な部屋を出て行った。

 女の子が部屋からいなくなると、ドアは自動で閉じてしまった。

 真っ白な女の子は真っ白な色の空間の中に、まるで溶けるように、白い色と白い色がお互いに、混ざり合うようにして、そのまま、まるでこの世界から消えていくようにして、どこかに歩いて行ってしまった。

 それから少しして、まるでどこかで急に電源が落とされたかのようにして、真っ白な部屋の中は、すべての色を失い、真っ黒な空間に変化をした。

 真っ黒な、まるで宇宙空間のようになったその部屋の中には、……ただ、永遠の沈黙と、床の上にわずかに残っている、(それは女の子が流した涙だった)一雫の寂しさだけが、残っていた。

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