武器屋のストラグル遁走劇

キューイ

矛盾の2人組

孫娘

 猛者たちが武器屋から出て行く。ドアのベルが鳴り、彼らは新品の防具にうっとりしながら彼らは出ていくのだ。武器屋のマスターはそれを笑顔で見送る。

 勇ましく門出を迎えた戦士たちと彼らを優しい瞳で見つめるマスター、微笑ましく見える。売り手と買い手の満足の行く取引なのだ。しかし猛者たちの未来は武器屋に来た時点で加害が関連する可能性がどうしても高い。その先に笑顔があることもある、一方で涙や傷もある。


 カウンターの奥、カーテンがかけられて裏方が見えなくしてある裏方とフロントを繋いでいる出入り口の枠に手をかけた一人の少女が彼らの門出を隠れながら見ていた。野心に溢れた彼らの目。仲間同士協力してなにかと戦うのだろう。何かを守るために戦うだろう。黒髪が目までかかるその少女は彼らを不安に見送ることしかできなかった。


 彼らに付き纏い、漂う鉄の匂い。芳香剤に使われてないのだから好ましくないに決まっている。それでも武器屋のマスター、彼女の祖父は売り、猛者たちは買う。


「ねぇ…お爺さん…?」


「どうしたんだいココ?」


マスターは猛者たちに見せていた接客用とはまた違った笑顔を見せ、膝を折って孫と目線を合わせる。孫であるココはギュッと自分の服の胸の辺りを掴みながら言葉を絞り出す。


「どうしておじいさんは武器を売るの?どうしてあの人たちは買うの?何か守りたいものがあるの?」


おじいさんはギョッとした。まだ10歳にも満たない子供から言われるとは思っても見なかったのだ。すこし俯き考える。武器の売買は未来に危険なものが伴うことが多い。事実であり、史実だろう。


「………ココ…俺は売りたい奴に売ってるだけだ。うちの超品質の良い剣や魔道具を買いたい奴なんてごまんといるさ!そして…俺のお客さん…買いたい奴は…何かを守ろうとしてる奴…かな。生活でも良い、家族でも良い、ご主人ってナイトもいたな」


「守る?」


ココは武器屋の店内をぐるりと見渡す。大体刃物だ。守るとは程遠い。幼い彼女にはそう見えた。盾や鎧ならまだわかる。しかしそれ以外はココにとって守るとは結びつかなかった。


「………ココこれだけは覚えておけ。武器ってのは守ることも傷つけることもできちまう。客は選べよ、未来の2代目………!」


現マスターは孫の頭をわしゃわしゃと撫でる。乱雑なのでココはぐらぐらと揺れる。ココは揺れる頭の中で考えていた。


 武器屋の2代目として…どうすればいいか。何をもって自分の正義としようか。目の前に並べられた武器たちはマスターが作ったり仕入れたものだ。ココは誰も人を傷つける、加害の未来を予想することしか今はできなかった。


 頭の中のグルグルとした考えはそこから4年もの間続いた。武器の木箱が運べない、そう呟くようになったマスターが引退し、2代目の武器屋のマスターであるココがカウンターに立つその瞬間まで。

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