Looking For

くるとん

First, Balance

1.Victory

001 勝利

「サンダー・インパクトッ!」



全魔力を使い放たれた魔法は、最悪の敵テラーに直撃する。



「ぐごぁぁっ!」



王都中にテラーの断末魔だんまつまが響き渡る。それは人類の勝利を告げる音でもあった。


人類は数百年の長きにわたり、テラーの脅威きょういと戦い続けてきた。人類は、そのあまりにも長かった苦痛くつうから、解放された。




「勇者殿と平和に乾杯っ!」




あの戦いから一か月。世間せけんではお祭り騒ぎが続いていた。勇者一行いっこうは各国の国王からありとあらゆる褒賞ほうしょうを受けていた。



「これで勇者パーティも解散だね。」



勇者パーティで回復役を務めていたミサが、話を切り出す。テラーを倒すことが勇者パーティの目的である。その目的が達成された今、冒険の必要はなくなった。



「いろいろあったけど、楽しかったよ。少し寂しいな。」



やや悲しげな表情を浮かべつぶやくのは、魔法使いのカナデだ。テラー戦で最後の一撃を放った魔法使いである。その言葉を肯定するようにうなづくのは、剣士のコウヘイと勇者のジュエルだ。



「まあ、いつでも会えるさ。」



コウヘイの明るい一言が続く。皆の視線がジュエルに集まり、ジュエルは書面にサインを始めた。



――――――パーティ解散申請書



手続きは無事に終了し、四人はそれぞれ別の道へ進み始めた。これからは平穏な暮らしが待っている。そう思うと足どりも軽い帰路きろであった。



「あらジュエル!おかえりなさい。よく頑張ったわね。」



「おー!勇者さまのご帰還だ!」



「あー、ゆうしゃのおにいちゃんだぁ!」



「勇者殿!」



世界にある九つの国の一つ、オパール王国。そこにある小さな村が勇者ジュエルの故郷である。村人の数は100人程度、酪農らくのうが主な産業だ。



「ただいま帰りました!」



村人の歓迎を受けたジュエルの一言に、村中から拍手が送られる。村の子どもたちは、ジュエルの持つ装備に興味津々きょうみしんしんのようだ。武器である大剣はさすがに危ないので、大盾おおたてや装備を見せてあげた。すると、慌てた様子の村長がやってきた。



「おお勇者殿、帰られたか。お疲れのところ申し訳ないのじゃが、王国から使者が見えておるのじゃ。すまぬが、ギルドまでよいか。」



平和な世界。ジュエルは子どもたちに盾を預けたまま、ギルドへと向かった。



「勇者ジュエル殿。私は、国王クリスタル三世の使者、ロードと申します。早速ではありますが、国王よりの書状でございます。ご披見ひけんのほどを。」



うやうやしく手渡された書状を、ジュエルが開封する。


そこには「火急の用あり。すぐに王都に来られたし。」とだけ記載されていた。少し嫌な予感がする。すぐに広場に戻ると、子どもたちから盾を受け取った。かわりに冒険の途中で入手した盾をプレゼントした。村の皆には、村長が話をしてくれている。



「ジュエル殿。こちらへ。」



ロードが馬車へ案内を始めるが、王都へ行くならば転移魔法のほうがはやい。ジュエルは馬車の近くまで行ったところで、転移魔法を展開した。



「転移魔法、座標設定。王都へ。」

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