あなたに伝えたい
しまおか
プロローグ
今日は朝から胸が躍る。昨日の夜は嬉しさも手伝ってかよく眠れなかったが、今日の体調はすこぶるいい。
少女が窓の外を眺めると、晴れ渡った空に朝から夏の日差しが強く照りつけていて、セミの声がうるさいほどに鳴いている。今日は暑くなりそうだ。日よけの為に少しつばの長い帽子をかぶっていかなくては。
久し振りに頂いた外出許可である。しかも初めてあの神社のお祭りを見ることができるのだ。幼い頃から病弱であった少女は、この数ヶ月ほど体調が良くなり、やっとのことで待ちに待ったお祭りに友達と遊びにでかけることを許された。
それまでほとんど家の中か、病院で過ごすことが多かった少女にとって、恐ろしい戦争も終わり、外の世界がどんどん活気づいていくにつれ、自分だけが取り残されていくことが怖かった。
早く体が良くなって、他の人と同じように町の中を走り回りたい。いろんな所に出かけたい。いろんなものを目にしたい。いろんな人と出会いたい。そしてやはり恋もしたいのだ。
少女は顔を洗い、朝食を食べ終え、着替えを済ませると、友達が迎えに来るのを心待ちにしていた。
「かずちゃん!」
少女を呼ぶ声がする。友達が来たのだ。少女は急いで玄関に出た。
「行ってきます!」
少女は弾んだ声を玄関まで出てきた母親に投げつけた。
「気をつけて行ってくるのよ! くれぐれも無理しないでね!」
母親の心配する声を背にして、少女は表に出た。思っていた以上に太陽の光が眩しい。普段ならこんな猛暑の中、外に出ることなど許されないが、今日は特別な日である。
少女は、ただ初めてのお祭りを見るだけではない気がしていた。この日が運命の日であるという事を少女は生まれながらに決められていたのかもしれない。
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