第3話 墓地にて(表)

 今、学がいる場所は墓地のちょうど中心あたりだ。普通の人間なら多少の恐怖感を覚えるところだが、学は全くの平常心だ。


 先ほどまで、わずかに漂っていた腐臭も無くなり、マイナスイオンの澄んだ空気が学を包む。


――似非科学だ。

 思わずマイナスイオンという言葉を頭に浮かべた自分を、学は自嘲した。だが、マイナスイオンが体に良いというプラセボ効果は否定できない。プラセボ効果によりストレスが下がり免疫力が上がるのであれば、それをわざわざ否定してネットの掲示板に執拗に書き込むほど学は捻くれていない。


 そんなことを考えていると、学の視野の周辺で空気が歪んだ。


――地面と空気の温度差による揺らぎだ。


 強い日差しがあると、まるで地面が鏡のように反射する。逃げ水や蜃気楼の原因だ。だが、日暮れの墓地では、残念ながら僅かに空気が歪むのが精一杯だ。


「珍しい、つむじ風か!」

 常に沈着冷静な学から、珍しく独り言が出た。学の目の前で木の葉が螺旋状に舞い上がっている。


――思ったよりも温度差があるようだ。今日は日中の日差しが強かったから、放射冷却現象が強いのかも?


 そんなことを考えてる学の指先に、痛みが走った。

「痛っ!」


 見ると、指先が切れて血が出ている。


「カマイタチ!」

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