ショートなら、Yes。(最後まで、Yes。短編集)

上之下 皐月

第一話 「あんたに、Yes!」

「三崎、俺達付き合い長いよな?友達からお前ら付き合ってるのか?なんて言われるんだぜ?…だからさ。…その」

U-21アンダー21の練習前に呼び止められたと思ったら。


真っ赤になって私の目をまっすぐ見る瞳。

今では通っている高校は違うけど中学生の頃から一緒にカーリングをしている仲間。


うん。言いたい事は分かるよ。

思い過ごしだ、と否定しながら、いつかこんな日が来る事を期待していた。

私だって気持ちは同じだった。

いつかこんな日が来たら答えようと決めていた言葉。

だから当然アタシの答えは決まっていた。


「いや、あんた何それ?告白のつもり?でも、木次きすぎさ。あんたアタシよりカーリング下手だし?アタシ、自分よりカーリング下手な男子興味ないの」


……。


いやいやいや、ちょっとまてアタシ

何言ってんの?

ここは恥じらいながら全力でこっちから「Yes!」で告白でしょう!?

そうするって決めてたじゃない!?

いつもコイツはっきりしないから。

ほれ、すぐに訂正してお詫びとついでに告白しちゃいなさい!?


「あんたスウィープりょくアタシよりないでしょ?もっと筋トレしてせめて六エンド、フルでスウィープ出来るようになりなさいよね!」


違うちっがーう!!

これじゃアタシがゴリマッチョ好きみたいじゃない。

いや、嫌いじゃないけども。


「確かにオレ、三崎よりスウィープ出来ないけど…。なら、今日の練習でオレが勝ったら…その…」


…おかしな事になってしまった。

もちろん木次きすぎ達に負ける事なんかあり得ない。

実力的コイツらがアタシ達に勝つなんてムリ。

いっそわざと負けるか?

それは、仲間達にも悪いし何よりカーラーの精神に反する。


案の定。

練習とはいえアタシ達有利で試合が進む。

そしてアイツの番。

アタシの投げたストーンをテイクアウトする気ね。

木次きすぎのデリバリー。


ばか。


そんなコースじゃ当たりっこない!

「Yes!!」

思わずアタシが叫ぶ。


「なんでお前がコールするんだよ!?敵だろ?」

「だって!当たんないわよ!下手くそ!さっさとYes!掃きなさい!」

「言われ、なく、たって!」

木次が懸命にスイープする。


「Yesよ!Yes!最後までYes!あ〜もう!いつもいつもコースが悪いし、アプローチ遅いし!!たまにはきっちり、はっきり、真っ直ぐ、アタシのストーンに当ててみなさいよ!?アタシはあんたにYesなのよ!!ばかぁ!!」


瞬間。


木次きすぎが呆然とする。

あ、こら、スイープ止めるな。


木次きすぎの投げたストーンがアタシのストーンに当たり。

…弾き出した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る