記録

「ご相談は終わりましたか。」


「あぁ、もう大丈夫だ。」


「でしたら、これから一つの映像をご覧いただきたいと思います。多少ショッキングな内容ですので、事前に心構えをしておいてください。」


「もうできてるから先に進めてくれ。」


そう答えると、目の前にウィンドウが表示される。何が来ても問題ない。



何かの記録映像だろうか。ノイズ越しでわかりにくいが、白衣に顔の大部分を覆うマスクの男がカメラに向かって話している。


『それでは実験――始します。』


『被検―は――間の空間収――後にコピーした―――です。これか――ちらのパストゥム――枢にデータを――替え、動作――ックを行いま―。』


男がフェードアウトすると、画面にヘッドギアを着け、四肢を拘束された白い人形のようなものが映し出される。これがパストゥムなるものだろう。

カタカタとタイピング音が聞こえると、人形の頭に装着されていたヘッドギアが青く光り始める。


『データ――行進行中・・・20%・・・45%・・・70%・・・100%、移―完了。切断後、起動処理―行います。』


ヘッドギアの光が赤へと変わる。


『起動中。・・・起―完了。おは―う、被検体―――君。お目覚――気分はどう――?』


『俺は・・・俺―誰だ?こ―はどこだ?お前は・・・。』


『ふむ、記憶の混濁―見られるな。落ち着――思い出したまえ、君の名前は?』


そう声がかかると、人形は体を起こし先程とは打って変わった冷静な声で告げる。


『俺は・・・私は―――だ。あぁ、覚えてい――も。また君に助け――たようだな。礼を―――。』


『何、気にするこ――ない。結局君も―――の素体な―だから。』


『・・・なんだと?私―オリジナルで・・・』


『いや、オリジナル――だ未完成―。君は――起動実験の為――ピーしただ――よ。―――の―――だ。』


ノイズが酷くなってきた。


『なら――故私を起――た!自我――――る必要な――無かっ――――!』


『いや――、こう――意思――通が――るか確――必要じ――――。現に――前に作――モノは全―話す―――できな――――らな。君――かげ―オリ――ルの完―にま――歩近―い――。』


更にノイズが酷くなり、会話すら聞こえない状態になってしまっている。


『―――――――――!』


『―――――――――?』


映像はかろうじて見ることができるが、もう声は完全にノイズに呑まれてしまっている。しかし、人形と白衣の男が言い争い・・・いや、人形が一方的に男に何かを言っているの直前の会話からわかる。


直後、人形の頭に装着されていたヘッドギアが赤く点滅し始めた。それに反応し人形は目を見開き拘束を解こうと暴れているようだが身体はびくともしない。


『―――――――――!!!!』


大声を開け必死の形相で何かを叫ぶ人形。その頭の点滅が徐々に短くなっていき、光が赤から白に変わると、電池が切れたかのようにピクリとも動かなくなった。

少しして、ヘッドギアから明かりが消えると、酷かったノイズが治まる。


『――――――実験の結果は良好。前回からの課題は完全に達成されました。』


カメラの前に男が戻りながら告げる。


『今回の結果は実験室が片付き次第送信します。どうやらギアの使用は近くの機器に影響を及ぼすようですので、後程文字に起こしたテキストファイルも作成し同封します。』


どうやらこの映像はどこかに送られるもののようだ。


『これで実験を終わります。一先ずの成果は上がりましたので、これで計画を次の段階に進めることができます。憎き人世界の虫を駆逐するため今後もご協力をお願いしますね、我が同胞。』


そう言いマスクを外した男は、あの広場で俺たちに説明をした男その人だった。



「これはあなたたちがこの世界に送られる前に撮影されたものです。」


これが捏造ではないとするならば。いや、ここまで手の込んだことをするだろうか?


「今ご覧頂いたのが掠種の先兵を作り出す実験映像です。あの実験を行っていた男に見覚えがあるのでは?」


「あぁ・・・俺たちに転生がどうとか説明した男だった。」


「彼が最後に言っていた同胞に向けてこのデータは送信されていました。そしてそれ・・はこの皇堂世界の内部世界・・・皆様が先程までいた世界に存在しています。」


「つまり、そいつを見つけ出して潰せ、と。」


「その表現は適当ではありません。一個人ではなく、確たる存在としてこの世界に根付いてしまったもう一つの世界・・・それを破壊していただきたいのです。」


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