初依頼

「すみません、依頼の説明を受けに来ました。」


「はい、ではカードの提示をお願いします。」


カードを差し出すと、スリットの入った箱のようなものに挿入した。


「討伐依頼ですね。対象は小型掠種の討伐です。レベル1の旅人二人以上が推奨となっておりますので、安全面から見ても問題ありません。」


ここまでは事前に確認していた通りの情報だ。


「では詳細をご説明します。近隣のとある村に掠種の出現予兆が報告されましたので、そちらへ向かい討伐していただきます。空間の亀裂の大きさからして小型が数体のみと思われますので、亀裂の消滅を確認するまでに出現、討伐した数に応じて報酬をお払いします。」


掠種についての情報が出たな。後でエルと考えよう。

カードを受け取りながら訪ねる。


「わかりました。村までの距離と移動方法はどうなりますか?」


「ここから南に200キロの地点ですので、石像からトラベルを行ってください。依頼を受けての利用ですので料金はかかりません。」


広場の石像はファストトラベルにも使えるものだったのか。ここから広場まで遠くは無いけど地味に歩かせるのは何なんだろうな。そこまでの区間でアイテムとか買い揃えろってことなのかもしれない。


「わかりました。完了後はまたここに来ればいいんですか?」


「はい、それで大丈夫です。では、いってらっしゃいませ。」


エルと広場に向かいながら考える。


「掠種って亀裂から現れるんだな。その向こうとかどうなってるんだろう。」


「実は別の世界だったりしてね。」


「・・・いや、ありえなくもないぞ。俺に説明してくれたラフツって人は、俺たちのことを『層外から来たんじゃないか』って言ったんだ。その前には『この世界で』とも言ってたし、この世界の層外って意味なら別世界ってことじゃないか?」


「なるほどね。亀裂は次元の断層で、層外からこっちに来るにはそこを通らないといけないとかかな。まぁどっちにしろ考察はここまでかな。情報が少なすぎるし、亀裂も掠種も見てみないことにはね。」


いつの間にか広場に到着していた。


「ヤバい、石像からトラベルするってのは聞いたけど、肝心の方法を知らねぇ。」


「まぁ何とかなるんじゃない?とりあえず前に立ってみて、それでだめならカード使うんだよ、たぶんきっと。」


なんとも頼もしい相棒だ。

促され石像の前に移動すると、目の前にポップアップが表示された。


【依頼先へ移動しますか? YES/NO】


「トラベル表示出たわ。もう飛んで大丈夫か?」


「いいよいいよ、やってみなきゃわからないし。」


「あいよ。」


【YES】をタッチすると、目の前が白くなりすぐに色が戻った。



「これで飛んだのかな?あっさり終わったけど。」


「まぁ景色が明らかに違うし、そうじゃないかな。ここが目的に村なのかはわからんが。」


そんな事を話していると、正面から老人が歩いてきて俺たちに話しかけた。


「おぬしらが依頼を受けてくれた旅人かの?」


話しかけられるとは思っていなかったので少し面食らってしまった。


「え、えぇそうです。すみませんが、あなたは?」


「わしはノッカ村の村長をしておるオストルと申す。組合から依頼受諾の連絡が来ての、迎えに来たんじゃ。」


真っ白な髭を蓄えた老人だったが、背筋は伸びており貧弱な印象は全く受けない。

一瞬気圧されるが、よく見ると優しい目をしているので第一印象からの落差が凄い。


「わざわざありがとうございます。私たちは先程登録したばかりですので、至らぬ点ばかりかと思いますがよろしくお願いいたします。」


「・・・そんなので戦えるのかの?おぬしらが死を死とも捉えぬのは知っておるが、もしその時に被害に遭うのはわしらじゃぞ?」


軽い気持ちで受けた依頼だったが、この世界の住人からすればもっともな話だった。

そこでエルが、


「えぇ、大丈夫ですよ。もしお疑いでしたら模擬戦でもしましょうか?村長さん今でもかなり戦えるでしょう。」


「・・・いやいや、その観察眼だけで充分じゃ。それなら無駄に死ぬこともあるまい。」


「僕たちは二人での戦い方は熟知していますからね。アルとなら余程の差がない限り負けませんよ。」


と、ここで俺たちの自己紹介をしていないことに気付く。


「すみません、遅れましたが、私はアルフィルと申します。」


「僕はエルツァックです。呼びにくい名前ですので、エルと呼んでください。」


「では私のことはアルと。」


「これは丁寧にすまんの。ここの住民は良くも悪くものんびりしとるからの、そんなに畏まった口調じゃなくてもいいんじゃぞ。」


最初から砕けた話し方だと、敵を作ることもあるから意識して丁寧にしていたが大丈夫そうだ。

あと、過去のRPGでガッチガチの敬語じゃないと一切反応しないAIがあったからその名残でもあった。

俺たちは苦笑し、


「わかりました、多少楽にさせていただきますね。」


「僕は割と素ですけどね。」


「ほっほっほ、そうでしたか。では村を案内しようかの。宿の手配もこっちでしとるから、依頼の完遂までいつまででもいてよいからの。」


「何から何までありがとうございます。・・・ちなみに、亀裂はどこに発生しているんですか?」


「向こうに見えるのがそうじゃ。」


と俺たちの後ろ、石像の方を指差した。

小型と言うくらいなのでそこまで大きくはないだろう。俺は腰の高さくらいのものを想像していたが、振り向いた先に見たもので想定の甘さを突きつけられた。


隣の木から大きさを推察するしかないが、そこには5メートルはあろう、何もない空間に走った亀裂が目に入った。

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