ゲームスタート:

ゆっくりと目を開ける。


「ここがスタート地点か。」


ぐるりと周りを見ると、家のようなものに囲まれた広場のような場所だった。後ろには石像のようなもの、その更に後ろに噴水があり、湧き出した水が地面の溝を通り家へと繋がっていた。

そして家のようなものと評したのは、俺の知っているものとは全く違っていたからだ。恐らく巨大な岩をくり抜いて作ったのだろうが、隣家と見比べると色も質も違うようなので別の岩なのだろう。


「これ、家作るのに別のところからわざわざ持ってきてるのか?一体何のために?」


進めていればこの世界の成り立ちもわかるだろう。一先ず考察は打ち切りこれからどうするかを考えることにする。

最優先は城と合流することだな。俺のキャラクリは城と組むことを前提にしたステータスだから、可能な限り早く見つけたいところだ。


「人の集まるところに行けば自然と合流できるだろう。来たばっかりで地理もわからないし、ここの住民に聞くのが一番だろうな。」


ちらほらと人がいるが顔だけでは見分けがつかないので、とりあえず武装していない人は住民だろうと当たりをつけ声をかけてみることにする。


「すみません、この近くに人が多く集まるところはありませんか?」


質素な布の服を着た男がちょうど歩いてきたので、そう聞いてみた。


「お?あんたも最近こっちに来た類か?さっきも似たようなこと聞かれたなぁ。あっちに建物が飛び出してるだろ?あれが旅組合だからそっちに行くと良いぞ。」


指さした方に顔を向けると、ひと際大きな岩が見えた。あれが旅組合の建物か。

いやそもそも旅組合ってなんだ?字面を考えるに旅人のための組織なんだろうが、旅行会社みたいなものだろうか。


「ありがとうございます。行ってみることにします。」


「おうおう、すぐ他のとこ行っちまうのもいいが、折角ならこの町でも仕事していってくれよな。」


そう言い男は行ってしまった。

仕事?旅人の仕事とは一体何だろうか。それもそ旅組合とやらに着けばわかるだろう。





「ここが旅組合か?近くで見るとすげぇデカいな・・・。」


他の家と比較して横に倍は大きく、端から端まで20メートル程度、縦にも3倍はあるんじゃないか?


「ドアは木製なんだな。入らないことには始まらないしさっさと入ろう。」


ドアを開け中に入る。

中はかなり広い。と言うかこれ外から見た大きさと内部の広さが一致してないぞ?横の広さだけでも倍どころか、入り口から壁まででも30メートルほどだろうし、正面に見えるカウンターのようなものまでは50メートルはある。

そこに椅子とテーブルが多数設置され、武器を持った人たちが座って会話をしていた。


「広すぎるしそもそも外と中で大きさ違うしなんなんだこれ・・・。」


「おうおうおうテメーも今日来た旅人か?ドアん前は邪魔だからこっち来いや。」


声の掛けられた方を向くと、俺よりも頭一つ大きい男が立っていた。


「お?おお!?・・・いや、すまん、いきなりの巨体で驚いてしまった。」


男はガハハと笑い、


「んなこた気にすんな!それよか、どうせテメーも組合来んのは初めてなんだろ?軽く説明してやるからついてきな。」


流石に人目のあるところで害されることはないだろうと考え大人しく従うことにする。





「ここに座ってくれ。今から他の奴らにも説明するところだったからいいタイミングだった。」


同じテーブルを囲んでいたのは5人ほどの男女だった。俺と同じような装備なのとこれから説明と言う言葉から、多分この人たちもテストの参加者なのだろう。


「んじゃあ軽く説明するからな。ここが旅組合と呼ばれていることは知っているな?こん中にそれがどんなことをしてるのかわかる奴は?」


俺は名前しか知らない。他の面子も同じなのだろう、黙って首を振っている。


「今日ここに来る奴は誰も知らねぇんだな・・・。年に1人くらいなら珍しいがないことじゃないが、流石に一日でここまでってのは異常だ。あぁ、別にテメーらが悪いって言ってるわけじゃねぇんだが。」


「いや、気にしないでくれ。俺がそっちの立場だったら同じような感想になるだろうし。」


「すまねぇな。同時に来るってんならどっかの村から仕事探しに来たとも考えるんだが、バラバラに来ては誰かが説明してってのを繰り返してるもんだからよ。」


とりあえずは同調しておく。異常と言われた原因は俺たちがほぼ同時にゲームを開始したことだろうし、初心者が一気に流れ込んできたら俺だって同じことを考えるだろう。

と、そこまで考え俺は違和感を覚える。多分この巨躯の男はNPCだろう。ただのNPCかガイドの役割を持っているのかはわからないが、受け答えが自然すぎる。過去発売されたゲームの中には、リアルタイムでの自然な会話を重視してかなり高性能なAIを積んだNPCと言うのも存在した。しかしそれは主人公の相棒やライバルキャラなど話の中核となる数人だけで、他はある程度会話はできる程度のものでしかなかった。

ざっと周りを見ると、今の俺たちと同じような状況になっているテーブルが散見されるため少なくともこのAIを積んだNPCはここだけでも10人はいることになる。


「(これもしかして最低限の基準がこのAIなのか?だとしたら技術革命ってレベルじゃねーぞ・・・。人間の脳でも接続してるのか?)」


中に人間が入っていますと言われても違和感のないものだったため、思考が変な方向へと行ってしまう。


「(ま、流石にんなわけねーか。それは置いておいて、説明を聞かないと)」


「で、だ。旅組合っつーのは簡単に言やぁ仕事の仲介をしてくれるとこだ。旅人として登録した俺らは死んでも死なねーから、一般人が出来ねーようなことを代わりにやって、それで金をもらうわけだな。」


「は?死なない?」


「おう、中央噴水の前に像があったろ?身体が壊れりゃあそこで再生すんだよ。」


なるほど、HPが全損したらリスポーンするってのをゲーム的に表現しただけか。NPCもリスポーンするんだな。

納得していると、同席している眼鏡の男が声を上げた。


「では、この世界に存在する人は皆登録さえすれば不死になれると?」


確かにそうだ。もしそれが通るのなら俺たちは何も特別な存在と言うわけではないことになる。


「あー、流石に誰でもなれるってわけじゃねーんだ。事前に心力があるのか測って、それが最低ラインを越えて初めて登録資格アリって判断されるわけだ。」


「すみませーん、心力?ってなんですか?」


杖を持った少女が質問した。


「あぁ?何って、テメー心術士じゃねーのかよ?」


「いえ、そうなんですけどぉ、まだなんにも覚えてないんで・・・。」


「つーこた格好だけかよ・・・、それでよくここに来ようと思ったな。」


「とりあえず人の多いところに行けばなんとかなるかなぁって。」


「まぁいい、心力ってのは、なんつーか生命エネルギーっつーのか、体ん中の心核から出てる力だな。そいつが強けりゃ強いほど体も強くなる。これから死にまくるテメーらはまずはそいつを鍛えるところからだな。じゃねーと、」


男が言葉を切る。死んだってリスポーンするだけだから問題ないと思うが、


「じゃねーと、心が折れる。自分が何をしているのかわからなくなる。そしてそのまま、突然消えちまうんだよ。」


この世界はそんなに単純なものではないのかもしれない。

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