爆発しそうな生きる理由

春嵐

第1話 女 屋上

「生きる理由?」


「そう。倫理の宿題」


「倫理ね」


 彼。昼休みだというのに、また、屋上へ来ている。


「生きる意味なんて分かんないじゃん。それを書けとか言われても分かんないじゃん?」


 自分とは違って、細かいことは考えないのだろう。


「生きるのにも、色々あるのよ」


 色々、ある。


 自分のような生き方を、彼には。してほしくないと、強く思う。


「そうね。これを出題した先生の意図を考えてみましょうか?」


「出題者の意図?」


「そう。たとえば、次の倫理の授業。ディスカッションがどうとか、言われなかった?」


「言われた」


「じゃあ、きっとこの宿題をもとに、ディスカッションになるわ。そのときのために、喋りやすいことを書きましょう」


 彼。


「喋りやすいことが分かんないなあ」


 困っている。


「そうね」


 この絶妙な、ばかさ加減が。自分の張り詰めた気分を楽にさせてくれる。


「生きるために必要なことは?」


「ごはん。寝ること。人と話すこと。この前倫理で習った」


「よろしい。では、生きるために必要ないことは?」


「え」


 彼。眉毛を中央に寄せて、考えるしぐさ。


「なんだろ。生きるために必要ないこと。ええと。そうだ。宿題。授業」


「あら。出した問題が下手でした。ごめんなさい」


 宿題と授業は、生きるのに必須な、考えるという動作を養う。中身ではなく、何かをこなすという成功体験を積ませるために必要なこと。


「生きるためには必要ないけど、自分がやりたいこと。それを教えて?」


「必要ないけど、やりたいこと」


「そう」


「運動、とか?」


「いいね。じゃあ、生きる理由は、運動にしましょう」


「運動?」


「そう。生きるのに必要ではないけど、やってしまうこと。自分の生き方とは関係ないことで、つい好きだからやってしまうこと。それが、生きる理由よ」


「そっか。そうなんだ。ありがと」


 彼の笑顔。


「いいえ。また分からないことがあったら、いつでもいらっしゃい?」


 彼。予鈴と共に、去っていった。


 と、思ったら。


「ねえ」


「ん?」


 戻ってきた。


「早く行かないと、授業に遅れるよ?」


「一緒に授業、出てくれない、かな。ディスカッションが、ちょっと不安」


「大丈夫よ。話したいことを話せば」


 授業には、出たくない。既に卒業認定は受けていて、出席の確認を取るだけだった。


 それに。


 あまり他人と仲良く、なりたくなかった。



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