性約の剣

汐風 波沙

第1話 明日、卒業できるとでも?

「なあ剣也けんや、明日で卒業だぞ。聖光ひかりに告らないでいいの?」

「う、うっせーな‼明日がまだある。だから、心配いらんわ‼」

「はいフラグ―!こいつまたヘタレフラグたてやがった。」

「ハッ!別に立ててないし。絶対告るんだって、明日は。」

「それは、告らないことへの振りなんじゃないの?」

「おお、淡音あわねもそう思うよな。」

「この件に関しては、早間はやま君と同意見。」

「だってよ。だからお前はいつまで経ってもヘタレなんだよ。」

「……クソっ。じゃあ、今から告って来ればいいんだろ!」

俺は、机で本をいる秋坂あきさかの方へ向かった。

「あ、あの、秋坂。ちょっといいか?」

「誰かと思えば、一ヶ嵜いちがさき君じゃない。それで、話って?」

「明日で俺たち卒業するんだなと思ってさ……」

「そうね。私は今、三年間の感謝の気持ちを込めて読書しながら振り返りをしているの。」

俺は一度読んでいる本の表紙を見た。

『世界の英雄譚12選』

読んだことある本だ。

「興味があるなら、あげるわよ?」

「いや、いいよ。俺もその本、読んだことがあったからさ。」

「なら差し上げるわ。読んでてもときめかないし。」

「じゃあ、ありがたくいただきます。」

「それで、話って何?」

「俺も、三年間言えなかった思いを伝えたい。」

俺は、一度深呼吸をした。

「俺、お前のことが好っ……」

守護者召喚サモンオブガーディアン

「は?今の声って……」

〈バチンッ〉

何かが弾ける様な音がし、教室の真ん中に、魔法陣が現れた。

「な、なんなんだよ。」

「みんな大丈夫⁉」

うちの担任もさっきの音を聞いては知ってきたのだろう。息が上がっていた。

「はい、とりあえず、みんな教室を……」

その瞬間、魔法陣が強く光り、俺たちは、

「ウワっ‼」

目を瞑った。





















目が覚めると真っ暗な空間にいた。

「一ヶ嵜君」

聞き覚えのある声、この柔らかい感触、

「うわっ‼って秋坂か。でも、この状態って……」

なんと秋坂が俺の背中に抱き着いているのが、背中を通してわかった。

「ねえ、何が起きたの?」

「それは俺も知りたいね。」

「それもそうよね。でも、……」

秋坂は、さらに強く俺を抱きしめた。さっきよりも密着していて、俺の心音が聞こえていないか不安になる。

「怖い。だから、もう少しだけ、このままでお願い」

声が震えていた。やはり、秋坂にも秋坂なりの事情があるようだ。

「いいぜ。何時間でも、何日でも好きなだけくっついてくれていても。」

「ありがとう」

「気にすんな。」

そのまま俺は、少しの間抱きしめられることになった。

俺はその時の彼女の体温が、まだ忘れられない。








何時間たっただろうか。

秋坂が完全に眠りについてしまい、俺はその場に寝転がっていた。

もちろん、秋坂には抱き着かれたまま。


ガチャン


何か大きな南京錠をおとしたような音がした。


ギイイ


何か扉の開くような音がした。

それと同時に、光が差した。

俺は起き上がり、振り返ると、そこには、ザ・お姫様がいた。

「お待たせしました。一ヶ嵜様、秋坂様。ようこそ、ユグリシア王国へ。」

「失礼ですが、なぜ俺たちの名を?そしてここは、何処ですか?」

「ここは、あなた方からすると、異世界と呼ばれる場所です。他の皆様が、お二人がいないと騒いでいましたので。」

「おお、ついに、俺も異世界に来たのか。ところで、他の皆様とは?」

「はい、あなた方の世界で言うと、クラスメート?と呼ばれる方々です。それと、何故一ヶ嵜様は、秋坂様から抱き着かれているのですか。、謝罪いたしますけど?」

「そんなことは無いですって‼」

「う~ん、ここ、どこ?」

秋坂が俺の背中から離れ、自分で立ち上がりながら言った。

「ユグリシア王国ですよ、秋坂様。」

「そうですか。」

「ところで、秋坂様にとって一ヶ嵜様はどのような人物なのでしょうか?」

「私にとって一ヶ嵜君は、……」

「一ヶ嵜様は?」

なにこんなことでドキドキしてるんだ‼俺たちは友達。それ以外の答えはないはず。

「唯一無二のパートナーだったはず。」

「おお‼それはつまり、愛し合っているということでよろしいんですね‼」

「は?」

「へ?」

待てよ、状況を整理しよう。とりあえずこの目を輝かせているお姫様は、俺たちが愛し合っていると勘違いしていて、俺らは、その誤解を解かなくちゃいけない。

「「いや、愛し合っているわけじゃないから(んですから)‼」」

ハモった。

どうやら、寝起きで自分がとんでもないことを言ったことに気付いた秋坂も、弁明しようとしていた。

「でも、相性が、ものすごくいいことは否定できていませんよ」

「べ、別に相性が悪くて問題ないでしょ‼ね、一ヶ嵜君」

「そ、そうだ。俺たちは相性がいいからいい友達ができている‼」

「そうですか。今はそういうことにしておきますよ。では、参りましょう。」

「参るってどこにです?」

「もちろん大広間にございます。」

「「は、はあ。」」

俺たちは、元いた部屋を出て、大広間へ向かうことになった。

部屋を出た後、俺は振り返り、部屋を見た。

そこはまるで、何かを召喚するためのような部屋で、俺は何度も見ている部屋とあまり変わらないものだった。

「なんか、頭が痛いな」

俺は何かを忘れている。何か大事なことを。その時はまだ、俺は、そのことが何かわからないままでいた。








「こちらの扉の向こうでお待ちください。」

「はい、」

「わかりました。」

俺と秋坂は、かなりの大きさの扉の前にいた。

「15メートル級の巨人くらいなら余裕で入れるな。」

「ごめんなさい、私、漫画とか読まないから、わからない。」

「ああ、だからこんな本読んでいたのか。」

「わ、悪かったわね、趣味が厨二くさくて‼」

「いや、そんなこと思ってないけど。」

「はあ~」とため息を秋坂は吐いた。

「じゃあ、扉、開けるぞ‼」

「いいわよ。何が来ても君が守ってくれるから。」

「まかせろ。」

この時は、俺が守るのではなく、彼女と一緒に戦うなんて、わかりもしなかっただろう。






扉を開くと、見覚えのある顔が集まっていた。

「あ、一ヶ嵜君、秋坂さ~ん。無事これたみたいだね~。」

「はい、なんとか着きました。」

「ところで、先生、酔ってます?」

「ぜ~んぜんよってないよ~‼」

「先生、近い、そして色々当たってるから離れて。」

「やっぱり年上好きだったか。」

「秋坂の視線がいたいから、ほんとに離れてください‼」

「ヤ~ダ、今日はこのままお持ち帰りするの~。」

「あ、照れて、鼻の下伸ばしてる。やっぱり年上の巨乳好きだったか。」

「あー‼先生本当に‼って寝ちゃってるよこの人。」

「確かに一ヶ嵜君は、抱き枕としての才能はあるからね。」

「お前が寝たのも俺のせいなの?」

もしかして、ここって異世界だから、俺のチートスキルが抱き着いてきた異性を眠らせることができるという能力なのか。特に使い道なくない?

「皆様、こちらに注目よろしいでしょうか。」

さっきのお姫様が、広間のステージに立っていた。

「先生、起きてください。あと、離れてください。」

「う~ん、あれ、私寝てた⁉後、なんで私、一ヶ嵜君を抱きしめてるの?」

どうやら、酔いがさめたようだ。

「とりあえず、離れてください、先生。」

「あ、ご、ごめんね‼」

やっと離れてくれた。

「そこ、うるさいですよ。今から説明しますよ。」

「はい、」

「すみません。」

「では、話を戻します。」

お姫様に注意された。

「私方、ユグリシア王国国民、そして、この世界の人類が、今、救いを求めています。なので、説明するも何も、お願いになります。」

お姫様は、一度深呼吸をし、

「私の名前は、サーニャ・ヴァン・ユグリシアと申します。この組の王位継承権第一位の王女でございます。皆様、どうかこの世界を救ってください。」

どうやら、俺たちは、この世界から無事に帰れるかわからないようだ。

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