#70 父との密談

 オムライスを食べてからしばらくして、父に呼ばれた。

 悠馬はいつの間にかいなくなっている。お散歩かな?

 父は単刀直入に聞いてきた。


「悠馬との生活はどうだ」

「……正直言うと」


 ん? 辛いか? と、父は首を傾げる。たまに顔がイカツい時あるけど、父は思ったより優しい人だ。


「……めっちゃ楽しい」

「おぉそうかそうか! 良かったなぁ! 悠馬と出会えたのは俺のお陰だぞ~俺に感謝しないとな!」


 こういうとこはもれなくウザいけどな。


「そうだねありがとう」

「お前棒読み過ぎだろ……妖の正体にすら気づかないバカを教育してんのは悠馬だぞ。お前の身の回りのお世話まで甲斐甲斐しくやって、お前を今日この日まで生き長らえさせてるのは悠馬なんだぞ」

「……っ!」


 痛いとこ突いてくるねぇ相変わらず。ほんっと、油断ならないわこのオヤジ。

 父は短く溜め息をつく。


「俺に分かんないわけねぇだろ、もう」


 喉元をを切っ先でつついてくるほどのご指摘をされ、俺は低く唸るしかない。確かに悠馬なくして俺の命はないのである。色んな意味で。


「まぁ、あ、あれは……悠馬に命拾いしてもらったようなもんだから、感謝……してる」


 すると、父は優しく笑った。目尻に皺できてる。老けたなぁ。


「良かったな、大事な同志ができて」

「あぁ」


 同志。良い言葉だ。


「同志ができたんだから、あとは、学校の勉強と陰陽道の勉強。しっかりしろよ~!……でもまぁ、あの新技は、俺にもできない。あれだけはすごかった。認めてやるよ」

「で、できないの?」


 やっぱり俺達の妖退治、視てたんすね。まぁ視てないわけないよね。

 てか待って。どんな術も難なくこなす父にできないことが、俺にできた……?! それって相当すんげえことなんじゃない? 俺CIAの職員なれそうな人よりすごいってこと? それは革命……!


「あぁ、到底無理だな。業火の近くに猛スピードで突っ込んで霊力爆発させるとか、そんな無謀で手荒な術は、命知らずで未熟者で、青二才の大バカ野郎にしかできない」

「…………」

「褒めてるからね? これ一応褒めてんだぞ?」


 いや褒めてねえって。知ってるか? “青二才”って言葉はな、辞書に「若くて、経験の足りない男を罵って言う語」って書いてあんだぞ。それでも褒めてるとか言う気ですか?!

 ったく、悠馬と同じようなこと言いやがる。主人と式神で同じDNA持ってそう。すげぇ憎たらしい。俺は吐き捨てるように言った。


「お褒めのお言葉をどうもありがとうございますねっ」


 褒めてんだってばぁ、素直に喜べよもう、つまんねーの!

 と笑いながら缶ビールを開ける父を残して、俺はドンドンと足音を立てて部屋へ戻っていく。階下から、父の情けない声が聞こえた。


「俺が買った家壊さないで京汰ぁぁ」

「知るかぁぁっっ!!」

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