#53 無事にレンチンされました

・・・・・・・・・

 2度も悠馬から警告を受けた皆川先輩だけど、全く動こうとしない。

 華音様も突然のことに驚いたらしく(俺の方がもっと驚いてるけど)、動けないでいる。


 俺はあまりにたくさんのことに驚きすぎて一瞬全ての機能がフリーズしてしまった。だけどようやく頭がパリパリと解凍し始めたみたいで、少しずつ思考力が再起動していく。


 今、俺は何をしなきゃいけない?

 ……目の前の女の子を助けなくちゃ。悠馬によれば、皆川は危ないらしい。悠馬が敵意を向けるなんて、よっぽどだ。だから、助けなくちゃ。

 そう思って華音様の方へ駆け出そうとすると、すぐに目を見開いた悠馬が制した。

 それを見て、皆川先輩は微かにわらう。


『京汰動くな、危険すぎる』

「何でだよ、華音様助けなきゃいけないだろ?」


 この問答で、皆川先輩と華音様から目を逸らしたのがいけなかったらしい。


〔可愛い女の子を喰うことのどこが悪い〕



 いつの間にか、俺達4人の周囲には結界が張られていた。

 そしてこちらに背を向けた皆川先輩からは、怪しげな黒っぽい煙のようなものが立ち上ぼり、制服のブレザーがマントのように変化していく。

 そして一瞬のうちに、皆川先輩は華音様の頭と背中を支え、彼女を自分のマントの奥に引き入れた。華奢な彼女はすっぽりと覆い隠されてしまう。


「や、大和先輩っ、何をっ」

〔俺が抱き締めてるんだから安心しろよ。好きだろ? 俺のこと。俺も好きだよ、だから大人しくしててね。可愛くて良い子だ……〕

「さ、さっき、喰うとか……っ、てっ……!」

〔そうだな。喰っちまいたいくらいに魅力的だ…………姫よ〕


 皆川先輩は再びこちらを見る。

 そしてあろうことか、これ見よがしに抱き締めた華音様の額に口付けを落とした。


「…………ぬあっ、なぁぁぁっっっ??!!」


 目ん玉飛び出そうなくらいにびっくりした俺を見て、悠馬は軽くため息をつきながら言った。諭すように、ママみたいに。


『京汰、これでいい加減分かったでしょ』

「ゆ、悠馬……皆川先輩、って、も、もしかして……いや、もしかしなくても……」


 悠馬は深く頷く。『気づくの遅すぎ』と言って。


『うん、立派なあやかしだ。人間に上手く化けちゃうタイプなんだね。古くから、貴族の娘とか、絶世の美男美女と言われる若者を喰って取り込んで、自分も美しくなって、その美貌でまた新たな美男美女を虜にして喰っていく奴だと思うよきっと』

「うわぁぁぁ……」


 そんな恐ろしい妖に出会ってしまったことと、ソレが華音様を今にも呑み込もうとしていること、そしてソレが同じ学校にいたことの恐怖に体が耐えられそうにない。

 文字通り震える俺を、華音様がチラッと見る。彼女も少し、震えている。心なしか潤んだ目が、必死にこちらに訴えかけてくる。


 ダメだ。俺がしっかりしなくちゃ……!

 深呼吸した俺を見て、悠馬が声をかけてきた。


『一緒に退治しますよ、京汰くん』


 隣には悠馬がいる。きっと大丈夫だ。慌てず焦らず、彼女を救おう。


「了解っ!」

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