#44 俺のお目当ては
・・・・・・・・・
「なぁなぁ、1年の模擬店行ってみようぜ」
俺が声をかければ、大体の奴はついてくる。
今もそう。俺の呼び掛けに、5人くらいの奴らがすぐに賛同した。人集めは簡単だ。
サクッと仲間を集めた俺が向かう先は、ただ1つ。
“キッチュでポップな映え確実のカフェです♡”
とパンフレットに書かれていた所だ。知り合いなどいなければ、絶対行かない所。
さっき本人からシフトを聞いた。まだいるはずだ。
「いらっしゃいませ~6名ですか、ちょっと待ってくださいね~」
……いや待て。俺が会いたいのお前じゃないんだが。
軽く落胆していると、俺の連れの一人が言う。
「おい城田、お前じゃ接客つとまんねーよ、裏方に回れよぉぉ」
この城田って奴はテニス部か。イカツい訳じゃないけど、たしかにこの空間に合う男子は少ないと思う。女子どもはそうした配慮を微塵も行わなかったのだろうか。相当パワーバランスの崩壊したクラスだ。
中に通してもらうと、さらにキュートな空間が広がっていた。やはり女子が多い。
この空間は、俺にとっては色々と落ち着かない。
内装がキュート過ぎる、という意味でも、俺が入った瞬間に女子達が軽く歓声をあげる、という意味でも。
「いらっしゃいませ……あ! 皆川先輩!! 来てくださったんですね!」
やっとお目当てを見つけた。
「華音ちゃんまだいるかな、って思って来ちゃったよ」
「嬉しいです! しかもこんなにたくさん!」
俺と一緒に来た奴らは、華音ちゃんや他の可愛い女の子に釘付け。まぁそうなるわな。この模擬店は男子生徒にとっちゃキャバクラやメイド喫茶同然である。
ちなみに、俺の目には華音ちゃんしか映っていない。
俺のことを憧れと言ってくれて、けど距離感も理解してる、可愛い後輩。そしてちょっと掴み所のない雰囲気も、また魅力的である。
横からふと視線を感じたので振り向くと、男子が俺のことを軽く睨んでいた。
「藤井くん、目付き悪いよ! 先輩に失礼じゃん~……先輩ごめんなさいね」
カラカラと笑いながら、華音ちゃんはそいつをたしなめる。俺も笑って受け流す。
藤井くんと呼ばれた奴は、黙って頷き、そっぽを向いた。
全く……彼女を狙うにはライバルが多すぎる。
まぁ、俺ならそいつら相手でもきっと勝てるけどな。
彼女は多分、俺に惚れてる……と思う。俺に惚れた女子達は、大体似た目付きをするって知っているから。
「ご注文は何になさいますか?」
「じゃあ、紅茶とチョコクッキーで」
華音ちゃんの目をしっかり見て言う。
分かりました! と頷いて、くるっと後ろを向く彼女。
これが本気で好きってことなのかどうかは、まだ俺には分からない。
でも、どうしようもなく惹き付けられる。
本当に可愛い。可愛くて仕方がない。
食べてしまいたいくらいに。
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