#42 僕らの密会
『と、とにかく、人間じゃなくて式神で、だから死んでるとかいう次元じゃないの。でも普通の人には視えないはずなんだけど、なぜか華音ちゃんには視えてる』
「え、なんで私の名前を……」
あ、マズい……! つい呼んでしまった。どう言い訳しよう。もう大パニックだ。
『あ! あ、や、その、ごめん……!』
すると彼女はコロコロと笑う。
「謝らないでよ、名前知ってるってことはきっとどこかで会ったのかな? 私こそ覚えてなくてごめんなさい。どこで会った……?」
『あ、や、会ったというか……』
たまに彼女の荷物ちょっと持ったりとかしたけど、それ以前の関わりはないし……。
「ねぇ、もし会ったなら教えて?」
優しい雰囲気を纏っているのに、有無を言わせない気迫を感じる。僕はとうとうその気迫に押されて、答えてしまった。恥ずかしいから、ちょっと早口になる。
『たまに、華音ちゃんの部活の荷物ちょっと持ったりとかしてた……で、周りの子が君のこと華音って呼ぶから…………あ、何か前見た時に膝痛いのかな? って思って……!!』
「あー、やっぱり……!」
華音が妙に納得の行ったような顔をするので、僕は不思議な気持ちになる。
「なんかね、たまに荷物ちょっと軽いな? とか、膝に負担かかりそうな時に思ったよりかからなくて済んだな? みたいなことがあって。あれ錯覚かと思ってたけど、やっぱり違ったんだ……君が助けてくれてたんだね」
『え……分かってたの?!』
「姿は見えなかったけど、何となく察してた? のかも。けど今、姿が見えて何か安心したよ~」
よかった~ありがとう~と、彼女は朗らかに笑う。色んな笑い方をするな、と思い、彼女の魅力を新たに知ったことに気づく。
無意識に、僕は彼女に近づいていた。
『実は僕……「名前、何て言うの?」』
『あ、悠馬、って言うよ』
「ゆうまくん……いい名前。……あ」
彼女の肩に触れていた。無性に触れたくなった。
至近距離で見る彼女は、やはり美しい。まだ汗で少し濡れている前髪と、乱れてうなじ辺りから出てきた後れ毛が、僕の感性に強く訴えかける。僕を上目がちに見つめる大きな瞳。少し開いた唇。このまま手中に収めたくなる自分がいる。すぐ近くでトクトク、と音がする。彼女の肩に触れた手が、少し震える。
僕達はそのまま少し、見つめ合った。
もう半歩近づいて、彼女の背中に腕を回そうとして……。
後ろから、足音がする。
複数人の上履きの音が聞こえる。
同時に彼女が僕から離れた。
「あ、あの、ありがとう。ごめんね、私模擬店もあるから行かなくちゃっ」
小声でそう言い残して、華音ちゃんは小走りで控え室へと向かった。
女バスの部員達が顕現した僕を素通りしていく中、僕は彼女が控え室に入るまで、揺れる後れ毛を見つめていた。
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