#41 神が与えたもの
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いつもそうなんだけど、今日は特に注意散漫な京汰。周りの喧騒にばかり気をとられている。今はバスケの試合が終わって少し経った頃で、まだガヤガヤと声が聞こえつつも、その音量は少しずつ小さくなっていた。
コートの内外にいた部員達も荷物をまとめ、体育館を後にしようとしている。
僕は静かに京汰の隣を離れて、彼女の後を追った。
しばらくついて行くと、バスケ部の控え室となっている理科室が近づいてきた。周辺の廊下は人通りが少なく、電気も一部しか付いていない。
好きな人を控え室まで追うなんて。僕もどうかしているな。
1人でふっ、と笑うと、彼女がこちらを見た、ように感じた。
……え、“見た”?
いや、視えてないんだから、視線など合うはずがないわけで。
でも彼女の目は、しっかり僕の目を捉えている、ようにしか見えない。
僕は思わず後ろを振り返るけど……誰もいない。
「なんで後ろ向くの? 私たちしかいないのに」
華音はおかしそうに笑う。
『え、それって僕のこと……?』
「うん、男の子なのにここまでついてくるから気になっちゃうよ。理科室は今、男子禁制だからね」
お茶目にそう言う華音。「ここの制服じゃないね。それならなおさら、ここから先はダメだよ。それか、迷子になったの?」と尋ねる彼女の様子は至って普通だ。普通の人間と同じように話しかけ、接している。
僕は顎が外れそうになった。目も飛び出そう。
『い、いつから僕が視えるの……?!』
彼女はこの問いかけにびっくりしたようだ。大きな瞳をさらに大きく見開く。瞳が落っこちてしまいそうだ。
というか、僕も僕だ。なぜだか知らぬ間に
ともかく、普通の人には隠形しようがしてまいが、僕のことは視えない(はずだ)。
ただ目の前の彼女には、隠形を解いて顕現した僕が視えている。これは一大事だ。
ただ困惑する僕を前にして、彼女も混乱してきたようだった。
「え、もしかして、見えちゃいけないタイプの人を私今見ちゃってる?」
『う、うん、視ちゃってる』
「えー! 思ったより私疲れてるのかな今」
『いや、そういうんじゃなくて、君には多分僕みたいなのが視える才能がある』
そう、霊感とかじゃなくて、才能がなきゃ式神は視えない。練習を積めば視える、なんてものでもない。その上、この才能を持つ者はかなり限られている。
まさか、彼女がそんな特殊な人間だったとは。なぜ彼女にその才能が与えられているのだろう。
さっきまで目を見開いていた華音は、急に真顔になった。真顔でも美しさは消えず、凛としている。この美女に、神は一体いくつのアドバンテージを与えたのか。
「えっと、もしかして、既に亡くなってる方……とか……?」
今度は僕が目を見開いて、首を左右にブンブン振る羽目になった。
『いや違う死んでない! ってか生きてるっていうのかなこれ…………んーとにかく死んではいない、ってか人間じゃないってのが多分正解』
「え、どう見ても人間の男の子なのに……?」
『うん。式神って存在なんだよ』
「しきがみ……?初めて聞いた」
やっぱり難しいか。僕も藤井家以外の人間に姿見られたことないからな、うまく説明できないや。
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