#36 僕の秘密
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隣の底抜けに明るい男子生徒は、ルンルンとして足取りが軽い。上履きで踏んだその場所から、音符が出ているのが見えそうだ。
そりゃあ学校のマドンナに「試合見に来て欲しい(的なニュアンスのこと)」なんて言われちゃあ、鼻の穴が大きくなってしまうのも全く以て無理はない。素直で可愛いとこあるんだよねこの子、なんて思いつつ、僕もするりするりと歩いている。
でも京汰の隣を歩いていて、ふと思った。 僕って卑怯なんだろうか? と。
うーん、結構割とそれなりにかなり卑怯だとは思ってる。自覚はあるんです。
卑怯というかセコいというか汚いというか。
僕ね、意外と性格あまり良くない気がするのよね。京汰のことばっか指摘して、自分のことは棚に上げてしまってる。人間じゃないしいいじゃんいいじゃん徳とか良心とか! って思ってるけど、隠し味で効かせたスパイスみたいに、後で罪悪感がピリリとやって来るんだ。
本当は知ってたんだよね。 華音ちゃんが膝を痛めてた、ってこと。京汰が華音ちゃんの口から事情を聞く、もうちょい前に。ストーカーみたいに見てればすぐに分かることだった。
まぁ僕だって、好きな女の子が万全じゃないことを知ったら助けたくなってしまう。でも京汰に感づかれても良くない。と実は1人でぐるぐると考えていた。
僕なら、ちょっと頑張れば彼女の膝の痛みを完全に消すことができるんだけれど、急に痛みが消えたら驚かせちゃうはずだから。
だから、実を言うと、あの京汰との微妙な冷戦状態期間中、僕はこっそり彼女のお世話もしていた。 そんなことできるの? って言われそうだけど、できてしまったんだよね。 だって京汰、魂抜けてたから。幽体離脱とほぼ変わんなかったから、僕が少しの間いなくても、全然気にしてなかったんだ。 これを僕は寂しいと捉えるべきだったのかもね。でも違った。 チャンスだ、って思っちゃった。つまり抜け駆け、ってやつだ。まあ抜け駆けしたって、当の彼女には視えないから意味ないんだけど。
じゃあ、華音ちゃんに例えばどんなことしたの、って? それは、彼女の荷物をちょーーーっとだけ持ち上げたり、膝に負荷がかかりそうな時にはちょーーーっとだけ膝の痛みを和らげてあげたり。 本人が気づくか気づかないか、くらいの加減で。気持ちわずかに負担が減るかな、くらいのレベルで。本当なら僕が全部、その痛みを引き受けてあげたかったけど、そこはグッと我慢した。
それにしても彼女は不思議だ。 あの美貌と人気を誇っているのに、全く鼻に掛けることがない。 人外の僕でさえも惹きつけてしまう、素敵な女の子なのに。 彼女はむしろ、本当の自分を見てる人はいないって思ってる。
彼女の考えていることだって、僕には分かる。
自分は卑屈じゃないかと思っていること。脇目も振らずまっすぐな人に惹かれやすいこと。前から気になる先輩がいること。 そして、京汰のバカ正直な所も、ちょっと魅力に感じ始めていること。
ただこんなこと、口が裂けても京汰に言いたくない。伝わって欲しくない。何か悔しいじゃん? サポートしてるのは君だけじゃないのに。
やっぱり僕は卑怯なのかな?
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