#35 描写の自粛がございます
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うるせえ。朝からとにかくうるせえ。
何が、って? そりゃあ分かるでしょうよ。
『京汰っ、おっはよー! 早く起きて起きて! 今日は文化祭だね! 美味しいごはんもいろんな出し物もあるんでしょ? 楽しみ楽しみ〜♡』
と、いつも以上のハイテンション(つまり測定不能レベルの興奮)と大声で目覚まし時計の音は見事にかき消され、俺の部屋に壁からスルッと入ってきて俺から布団を引き剥がし、何とベッドの上に乗ってきた。まあ男とはいえ式神なので、乗ったとこでベッドは壊れない。質量ないし。ただ画的に問題がある。非常に問題がある。なのでこれ以上は描写を自粛させて頂くが、まあ色々あって5分くらい経って、俺は何とか悠馬を退け起き上がった。
「あー髪も布団もぐちゃぐちゃじゃんか! ったくやかましいわ、もっと丁寧に起こせこの野郎っおい聞いてんのかこらっ」
朝から毒を吐くが、もう悠馬はいない。部屋を出てみると、ゴーストバスターズを歌いながら目玉焼きを作っていた。いや選曲……お前それ歌える立場かよ……
平常運転の軽いツッコミを入れつつ、それでもいつも以上に賑やかな(2人しかいないけど)朝の時間を過ごし、俺たちは家を出た。
学校に着くと、文化祭実行委員が「ここの飾り付け取れてる!!」とか、「ここの風船割ったの誰だよおい!」とかいう怒鳴り声や、その直後に風船が派手に割れる音、そして廊下では絶え間ないジャニーズメドレーやアニソン、有志でダンスを披露するグループが練習する掛け声、吹奏楽部のチューニング、さらに校庭からはテニスのラリーの音、無駄にでかいホイッスル……もうとにかくいろんな音がひっきりなしに鼓膜を揺らす。鼓膜が過労死しそう。そして横では、
<うわぁぁぁこんなに賑やかなんだ! めっちゃ楽しそう! 京汰帰宅部なんてとってもとってもすんごくどうしようもなくもったいないよ、人生やり直した方がいいよ!>
例のあいつが喋り倒す。マジでうるせえ。悠馬だけでも毎日相当うるせえのに、今日は周りもうるせえ。
(人生やり直すってどゆことだお前、しょーがねーじゃん家系的に色々やんなきゃいけねえからよ、それに後悔なんかしてねーしお陰で華音様の試合見れるし、だからとにかく黙れうるせえ)
またしても俺は毒を吐く。陰陽師の家もそこそこ大変なのだ。覚えることがとっても多い。最近は悠馬の登場とかテストとかでてんやわんやで、全然訓練の時間ないけど。術も結構忘れてる気がするなぁ。……まぁいずれどうにかなるっしょ! ノープロブレム。
<いやぁこれを2日の準備期間だけで作るなんてみんなすごすぎ! 僕感動!……え、焼きそばだって! 食べたーい♡ って、今はまだ開店前かぁ残念! 京汰あとで一緒に行こ♡>
黙れと言っても到底聞く耳を持たない悠馬の怒涛の言葉は、軽く受け流し続けた。もうどんな音も、鼓膜を揺らして通過するだけだ。
だが教室の近くまで来ると、突然悠馬が<あっ>と言った。その声はなぜか耳から脳へ伝達されたので、瞬時に視線を変えると。
廊下に面した洗面に華音様が。しかもポニーテールの華音様が。今日もキマってる。彼女が俺に気付いて顔を向ける。可愛すぎて言葉が出ない。どうしよう。
「京汰くん! おはよ!」
ななんと! 華音様の方から挨拶してきた!! うわわわわわわわわわわわしかも京汰くん呼び!!! 誰か俺を、藤井京汰くんを支えて、倒れちゃう!
「あ、お、おはよ、きょ、今日試合だよな? ひ、膝大丈夫……か?」
左手の悠馬が挙動不審の俺と華音様を交互に見やる。やめて見ないで悠馬恥ずかしいわ。
「あ、うん、おかげさまで大丈夫! 普通に試合できそう! 本当にありがとね」
「お、おう」
ぎこちなく笑う俺。華音様のいつものふわふわスマイルがフェードアウトしていく。会話が終わった。つまり、去らなければ。HRの行われる教室へ行かなければ。えーとなんて言おう。無言は良くない。あ。あとで教室でな、はどうかな。よしこのセリフで行こう。
「あ、じゃああと「ねえ試合見に来れる?」
ん? 華音様なんかおっしゃったよね? さっきから予想外の展開が多い。どしたの華音様。
「あごめん、なんて言った?」
華音様は俺を見据えたままだ。やだ何この胸の高鳴り。ドキがムネムネしてる。
「試合、見に来れる?」
「う、うん行けるつーか行く」
華音様の視線が少し揺れる。びっくりしたのかな。いやでも当たり前だろ。行くよあなたの試合は。
「ほんと? よかった! 膝大丈夫だよ、ていうのちゃんと見てもらいたいと思って! じゃあまたあとでね!」
鏡で髪型を確認してから俺の方をもう一度見て、そのまま彼女はポニーテールを揺らして去って行った。
……可愛い。ほんと可愛い。
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