#25 祝杯をあげよう

・・・・・・・・・・・・・・・

 
微妙な冷戦状態解除宣言をしたら、なんか心が軽くなった。冷戦だったかどうかもよく分かんないけど、まぁ冷戦ってことにしておこう。うん。

 悠馬はまた、お掃除や料理をしてくれるようになった。めでたしめでたし。まあ単に俺が再び楽になったってのもあるけど、やっぱお節介な式神とわちゃわちゃ喋る毎日って悪くないな、と感じて、そんな日々が戻ってきたことに軽く祝杯をあげたい気持ちでもある。まだ全然未成年だけど。うん。グレープ味のサイダーとか、シュワシュワぁってした奴を綺麗なグラスに入れて、チーンってしたいの。分かってもらえるかなぁこれ。



 それから一夜明けて、10月最後の日になった。10月最後の日。10月31日。


 ……そう、ハロウィンがやってきたんだ!

 
俺の学校は普段、お菓子の持ち込みは禁止されている。が、周りの話によるとハロウィンとバレンタインは暗黙の了解でOKらしい。まぁそういうもんだよね。先生だって、心のどこかでお菓子もらえること期待してるはずだもん。こういう時に、生徒からリアルにどう思われてるか分かるって意味では結構シビアなイベントの日なのだけれど。

 てな訳で、俺も昨晩スーパーで買ったパンプキンチョコのアソートを持っていくことにした。ハンドメイドはしません。

 
だが家を出ようとした矢先、またあのうるさいのが始まったのは想像に難くないだろう。
 



『え、京汰! お菓子持ってっちゃだめって言われてるじゃん! 悪い子だねえ』
 


「バーカ、今日はハロウィンだから一応OKなんだよ」
 


『バカなんてひどい! 僕メイドインジャパンの式神だもん! そんな西洋の祭りなんて知らないもん!』
 


「……西洋の祭りってのは知ってんのな」

『京汰くん、トリックオアトリート』
 


「がっつり知ってんじゃねーか」
 



 というやりとりができるくらいには、俺らの関係は元通りになっていた。
 俺はまたこうやって笑顔で悠馬とわちゃわちゃ喋りながら、かつ時計とにらめっこもしながら、勢いよく玄関のドアを開けた。



 
俺が(正確に言うと俺達が)意気揚々と教室に入ると、そこではもう盛大なお菓子交換が始まっていた。昨日まで死人のようになっていた俺だが、もう心を切り替えられたので、目が合ったクラスメイトにどんどん声をかけていく。
 



「どうした京汰、今日やけに元気じゃん」

「まあなんか今日から明るくいこうぜ的な! ハロウィンだし!」
 


「色々あったんだろうけど、確かに昨日までのお前お前じゃなかったもんな、やっぱ明るくてバカなお前が一番!」
 


「だよなだよな、俺もそう思ったー! てな訳でほいほい、お前らにチョコあげるね、京汰くんからのディープな愛の印な、しっかり受け取れよ」
 


「お前のそういうとこ愛してる」
 



 とまあ、例の明るいキャラを復活させたらまたすんなり皆と話せるようになれた。おバカ万歳。こういう時にポジティブキャラは役に立つ。バカで良かったぁ。

 
家を出る間際にもあげたが、みんなの視線を掻い潜り、悠馬の方にチョコを投げてやる。もう絶対言わないけど、俺からの謝罪と愛の印のつもりだ。愛ってのは友愛な。悠馬はしっかりキャッチして、笑顔だけこちらに向けたと思うと、なんとお礼も言わずチョコを口に放り込んだ。

 
……あげなきゃよかった。
 
 




 男子陣と一通りお菓子を交換して、もぐもぐしながら喋っていると、おはよ〜う♡ という女子特有の甲高い声が聞こえてきた。それに対し、おはよっ♪ と爽やかに答えたのは。




 そう、我らがアイドル、篠塚華音様である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る