#13 バケモンはどっち?

・・・・・・・・・・・・・・・



 僕は気づいた。京汰の唇がやけに震えていると。


 そして、彼は僕と同じようにどもり始めた。




「悠馬、か、かのっ、て……、かっ……」




 うーん。どうやって切り抜けましょうか。

 華音様の選択授業に勝手に潜ってましたって正直に伝えた方が良いのでしょうか。

 ……いや、正直に言えば消されそう。ここはからかい作戦にしておこうかしら。




『ん? なになに、カノッサの屈辱? すごいじゃん京汰、ちゃんと試験範囲覚えてる!!』



 京汰の目がマジになる。やだこの子、本気で“プッチーン”の状態じゃん。

 
僕はこの時が初めてだった。

 
人外のモノが人間を恐れた瞬間だった。ある意味歴史的。




「悠馬、てめ……今なんつった」


『……ん?!』


「何で華音様の選択授業なんか勝手に参観して授業内容覚えて来てんだよふざけんなよ華音様の授業見たいのはこっちだよてかさぁお前俺の世話役ってか家政夫じゃなかったわけなんで俺の傍に隠形してないのねえ何なの俺が授業集中してる時にどこ行ってんのお前いくらなんでも式神として度が過ぎるぞそろそろ消してやろうか?」



 あ。どっちみち消されるパターンでしたか。


 てか、こんな弾丸のようなことを言われて、おののかない者はいないはずだ。そうでしょう?……というか、彼のノンストップの台詞よりも、華音ちゃんに対する執念じみた好意に僕は慄いた。ここまでガチモンだとは知らなかったよさすがに!

 まぁ僕は僕なりに、彼に言うべきことがある。こんなに消す消す言われちゃあ、堪ったもんじゃない。




『京汰……』


「あ? なんだ? 何かあんなら言ってみろこの野郎ただし俺の逆鱗に触れること言ったら直ちに消すけどなっ」


『京汰、君って、勝の息子でしょ? 血縁関係あるんでしょ? 恐らく多分高い確率で絶対に陰陽師だよね……?…………言霊ことだまを雑に扱い過ぎだよ……術者としての意識をもうちょっと……』

「うるせぇぇぇぇぇ! おめえみてえな式神に諭される謂れはねぇよぉぉぉ!!」



 あちゃあ。

 
僕の発言は、京汰の逆鱗げきりんに触れたようだ。まぁ何言ってもキレるだろうけど。
でもホントのことを言ったまでであって、僕に非はないと信じる。だって、今時、あんなに有能な陰陽師を父に持つ子どもだもの。色んな可能性を見据えた上で、彼には多少気をつけてもらいたいだけで……。




「……悠馬ぁぁ聞いてんのかこらぁぁ、式神と人間様の関係性について述べてたんだぞ俺わぁぁ」


『……あ、ごめん、なーんにも聞いてなかったわ』


 

……あぁもう、どうしてここまで僕は京汰くんの逆鱗に触れてしまうんだろう。

 選択授業に潜ったのは悪うございました。でも僕の献身的なサポートを棚に上げた発言しすぎじゃない? なんなんこの少年は。キレすぎだって!


 ねぇ主人、助けて。


 ちょっとアナタの息子さんの扱い方が僕はわからない。




「んにゃぁぁあっ、とにかく華音ちゃんの授業に行ってるとか許せない! 今回は相応の罰を与えなくては……! 退治だ退治妖怪退治だぁぁあ」


 

妖怪じゃないよ、式神だよ。

 
……と言う間もなく、僕の眼前には鬼気迫った京汰がまさに襲いかかろうとしていた。
男の執念も、女同様に怖い。

 今この瞬間は、君の方がよっぽどバケモンです。




 そしてこの後、僕らは家中を駆け巡り、ノートや新聞を手にして、決死覚悟の激闘を繰り広げたのだった……。

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