#9 何ともめんどくせぇ奴
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俺は半年前、恋をした。
お相手はもちろん……篠塚華音だ。
彼女はクラス一、いや、学年一可愛い女子生徒だ。入学してからずっと、あり得ないくらいに人気がブーストしている女の子。俺みたいな雑魚にも優しくしてくれる、まさに女神。それでいてあざとくないし性格も申し分なし。お腹は真っ白。……あ、これセクハラ発言ではありません。神に誓って、式神にも誓って、セクハラではないです。はい。
せっかくクラスが同じなのに、半年間、ずっと片想いのままだ。
いつかは想いを伝えたい!……でも色々と自信のない俺はなかなか実行できず、そのまま時は過ぎて行った。
幸い華音には、まだ彼氏がいないようだった。
俺は暇さえあれば彼女に想いを馳せ、いつ告白しようかと考えあぐねていた。
そんな時だった。
俺の第2のママがとんでもない発言をしたのは。
『京汰、京汰って、篠塚華音ちゃんのこと好きでしょ?』
マジかよ。そんな素振り俺全く出さなかったのに! 悠馬にはお見通しだったのか……!
俺が驚きのせいで間抜けな顔をしたのだろう。悠馬はニヤニヤしながら俺に迫ってくる。
『だって、授業中は大体華音ちゃんの方見てるし』
「うっ……」
式神にバレた恥ずかしさを必死で隠そうと、俺はやりもしない化学の問題集なぞ広げて、テスト勉強のフリをした。が。
『ねぇねぇ京汰、京汰の学力を知った上で、ひとつお願いがあるんだ』
何かまわりくどい事を言う悠馬を怪訝に思った。
こいつ、ここまでまわりくどい奴だったっけ。
「……何だよ」
『この中間テストで、一教科でも学年平均以下取ったら……』
シャーペンを持つ指が、微かに震え出す。 何を言い出すのか。
「取ったら……?」
『華音ちゃんのことは、あきらめて』
ん? 今喋ったの何語ですか?
悠馬の言葉が脳みそにインプットされない。なんかプログラミングの記号みたいに表示されるんですけど。何これ。
カノンチャンノコトハ、アキラメテ
「はあっ!?」
俺は握っていたシャーペンを落とした。弾みで問題集までバサリと落ちる。 でもそんなのはどうでも良かった。
「待て待てタイムタイムターイムっ!! 今、何つった?」
『どっから言えばいいの?』
真面目な顔して尋ねる悠馬。お前マジふざけんなよ。
俺は叫んだ。
「平均点以下取ったら、の後だよっ!!!」
しかし悠馬は、慌てふためく俺に平然と言い放ったのだった。
『華音ちゃんのことは、あきらめて。……僕、華音ちゃんに、恋をした』
「いやいやズルいだろお前!! だって悠馬は勉強しなくていいんだから!」
悠馬は俺をひたと見据えた。どこまでも真剣な式神を、本能的に怖いと感じた。さすがバケモンだ。……ってここでバケモンの本領発揮されても困るんだけどな。
『京汰。学生の仕事は何だ? 勉強じゃなくて?……ブツブツ言ってるんなら、また壁からするっと方式で京汰の部屋入ってやっても、いつも僕がやっている洗濯をほったらかしてもいいんだよ……?』
何と。宣戦布告の上に、家政夫業放棄の脅迫。俺の楽チンな生活が奪われるのは困る……!!
「わ、分かったよ! 分かった分かった! じゃあ勉強してやるよ! クラスの底辺レベルの学力の俺でもできるんだからなっ、やる時はやるんだ俺だって…………っ!!」
ついに宣言した俺に、生意気に『頑張れぇ、その心意気ぃ』などと言っている悠馬である。マジでしばきたい。理性でそれを止めてる俺偉すぎな。
「憎たらしい…………っっ!」
俺の恋敵は、憎たらしい式神だった。
負けたくない。人外のモノに愛しの篠塚華音ちゃんを取られてたまるものか。
このバケモン、俺の同居人兼家政夫兼恋敵だったとは……。何ともめんどくせぇ奴と一緒になっちまったじゃねえか、この野郎。
「やってやる!!」
こうして、俺は初めて、“試験ガチ勢”の仲間入りを果たしたのだった。
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