#8 僕が必死な理由
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『ほら、さっさとやんないとご飯になんないからねっ!!』
「えええええ俺今死にそうなくらい腹減ってんだけど! 腹が減っては戦はできぬ!」
『これは戦じゃなくてただの宿題です!』
「ぬぬぬぬぬぅぅ……!」
とにかく、京汰を勉強させなければ。
別に志望校合格! とかテスト全教科8割突破! とかいう高度な目標を掲げさせているわけじゃない。僕カリスマ講師ではないので。ただの式神なので。
でも、とにかく京汰を机に向かわせなければ。
僕は知っていた。
……京汰が恋している女の子のことを。
京汰のクラスには1人、ずば抜けて可愛い女子がいた。
彼女の名前は、篠塚華音。
ホームルームでも、他の授業の時でも、京汰の目がチラチラと華音を追っていることは知っていた。
というか、普通にバレバレだと思う。僕初日で見抜いたし。
華音という名前のように、彼女には華がある。
その場にいるだけで、必ず1度は目を、あるいは心を惹きつけてしまう力を持っているのだ。
かと言ってお高く止まってるとか、とっつきにくいなんてイメージはなくて、彼女は誰にでも優しい。若き女神。
神様も、よくまぁこんなすんばらしい女の子を作ったな。めっちゃ全力で作ったんだと思う。……京汰を作る時は、7割くらいの力だったのかな、神様。……ごほん、ごめんなさい。ご主人に消されちゃうわ。
くるんとした大きな瞳。両手で包んだら、隠れてしまいそうな程の小顔。お日さまのように笑って、その度に良い香りのする長い髪が揺れて。
あなたは少女漫画の中にいた人ですか。間違えて実写の世界に迷い込んじゃったんですか。それなら僕があなたの手を取って、元の世界にお連れいたしましょうか。
おっと、いけないいけない。妄想が。
式神でも、妄想の1つや2つや3つや4つくらい、するのです。いろんなジャンルの妄想をね。うん。
とにかく、そんな彼女に……
式神の僕も惹かれてしまった、というのは、当然のことではないだろうか。2週間毎日見てたらね、僕だってコロリと落ちますよ。
人外のモノを惹きつけちゃうくらいには美しすぎるのよ。
まぁ、そりゃ京汰も恋に落ちちゃうよねぇ。
だから僕は、なるべく京汰を試験勉強に集中させた。
もう華音を見ないでくれるかな。彼女を見つめないでくれるかな。
とにかく、勉強だけしててください。あなたが見つめるのは教科書だけでいいんです。
お願いだから、これ以上、好きにならないで。
僕のことを視て欲しい。
僕の存在を見つけて欲しい。
その目で僕を視て、その姿を僕に向けて、その声で僕の名前を呼んで欲しい。
これは、わがままですかね? 僕の方が、京汰より分が悪いんだ。……いいですよね?
いくら式神でも、この想いを止めるのは難しい。
僕は気づいてしまったんだよ、この気持ちに。
あわよくば、僕は……。
華音ちゃんを独占してみたい。
そんな想いに、気づいてしまったんだ。
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