俺の恋敵が人間じゃないなんて聞いてないんだが
水無月やぎ
出会いの9月
#1 生誕の経緯
まだ生ぬるい風が吹いていた。
9月の始めだった。
「じゃあな。あいつの事は任せた。よろしく頼むよ」
『はい』
僕の主人——
勝さんは玄関のドアを開けようとする手を止め、僕の方を振り返った。
「
心臓が、どくんと音を立てた。
「……式神なんだ」
僕は力強く頷いた。
『はい。……行ってらっしゃいませ』
今度こそ本当に、勝さんは家を出て行った。
*******
そう、僕は人間じゃない。
式神だ。
昨夜、勝さんによって僕は生まれたばかりだ。みなさん、初めまして。
でも見た目は新生児ではなく高校生くらいで(新生児だったら困るよね)、日本語とか一般的な外来語とか若者の間で流行ってるスラングとかの基本的な知識は、最初に勝さんが僕の頭に入れておいてくれたようだ。さすが、実力のある陰陽師。タピるとかLJKとかぴえんとか、ちゃんと意味分かるんだよ。
術を唱え終え、目の前に現れた僕を
——はじめまして……。主の勝だ。これから長い間、出張で家をあけるから、君に息子……京汰のことを任せたいんだ。よろしくな。もしあいつが何か危険な目にあったら、京汰を護ってやってくれ
彼は有名な家系ではないけれど、先祖代々陰陽師の血を引いている。彼の仕事は陰陽道とは一切関係ないが、なんせ血筋故に様々な
それから勝さんは少し考え込むようにして、また口を開いた。
——君に名前を与えよう。式神って呼ばれるより、名前がある方がいいもんな。うーん、どんな名前ならいいだろう…………
僕は、名を与えてくれた主の顔を見つめた。
——君には、必ず守らなければならない
はい、と返事をすると、小さく笑った勝さんはまた付け足した。
——あとは、主である俺の言う事を守ってくれ。度の過ぎた行動はやめろよ。無闇に勝手なことをするな。自覚を持て。……これで全てだよ
そして僕は、主である京汰の父、勝さんに仕える身として、実際には京汰に仕える身として働くことになったのだった。
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