第13話 ミランダの思考

 自分が断罪されないようジョンパルト家全体に魔法をかけたミランダは、わたくしを伯爵家から追い出すために、あれこれ行動を始めました。それは学園に入学する直前まで続き、入学したことである意味成功しました。

 わたくしは寮に入ることになっていましたし、ミランダは兄と一緒に伯爵家から通うことになっていたからです。入学式の二日前に制服を取り上げていたので、当日はわたくしから奪った制服を着用し、自分が姉に成り代わってSクラスに行こうとしましたが、制服一式を持つことはできても、その全てを着用することができなかったのです。


 その理由がわからず、苛立っていたそうです。


 この時に入学案内書を読めば理由がわかったはずなのですが、ミランダはその考えに至ることはなく、Sクラスの制服が着用できないことに苛立ち、八つ当たりで自分の制服を切り裂きました。そして、その時も前世で読んだ小説の内容を思い出し、学園でもわたくしを孤立させようと思いついたのだそうです。

 これならば大丈夫だろう、計画通りに行動しようと決めたミランダは、学園でも同じように魅了魔法と隷属魔法を使いました。けれど、入学式でも、教室内でも失敗しました。

 魔力量が少ない自分から高い方へ魔法がかけられないこと、入学式の会場やクラスにいた方たちは自分よりも高い魔力量を持つ方たちばかりだと知らなかったのです。しかも、ミランダ自身の魔力量は、貴族としてはあり得ないほど少なかったといいます。

 だからこそ、ジョンパルト家ではずっと魔法をかけっぱなしにしていたのではないかと、オビエス様がおっしゃっていたとか。


 そして当のミランダですが、どうして魔法がかからないのかと、そのことに苛ついていた彼女は、教室から廊下に出ました。すると、ちょうど一緒に帰ろうと迎えにきた兄に、嘘をつくことを思いつきます。

 家を出る前にわたくしに制服を破られ、先ほど姉が自分がいるクラスに来て教科書を破ったと兄に言ったのです。実際、ミランダは一着のみを残し、八つ当たりで残りの二着を破損させていたからです。

 教科書は兄やクラスメイトに見つからないよう、鞄の中にしまった状態で風の魔法を使って傷などをつけたそうです。それと同時に、どうして姉がSクラスにいるのか、もしかしたら不正をしたのではないかとも訴えます。

 その話を聞いた兄は自分が側近候補になっている殿下のところに行って訴えたらどうかと提案、ミランダを連れていきました。ミランダ自身は王子と懇意にできるなら、もしかしたら自分が恋人になれるかもしれない。

 もしなびくことがなかったら魅了と隷属の魔法をかければいいと軽く考えていたそうです。前世ではそのような内容のお話も溢れていて、もし婚約者がいてもわたくしと同じように冤罪を被せ、貶めて奪えばいいと考えていたのだとか。

 そのまま兄と一緒にSクラスへと赴き、殿下と二人の側近候補を紹介されたミランダは、その容姿に胸を躍らせたそうです――もしかしたら、小説のように逆ハーレムが作れるのではないか、と。殿下たちのクラスメイトも容姿端麗な方が多く、ますますその野望が叶うのではないかと考えていたそうです。


 逆ハーレムという言葉が何を指すのかわたくしにはわかりませんが、よくない言葉だというのはなんとなくわかりました。殿下たちもそう感じたそうです。

 なんと醜悪な理由でしょう。


 そしてSクラスに到着して魔法を垂れ流してみましたが、誰一人自分になびくことはなく、どうしてなのかわからないまま殿下たちに、制服と教科書をわたくしに破かれたと訴えました。

 けれどミランダは、Sクラスにいる方たちの魔力量がFクラスの方たちよりも多いことと、高位貴族ともなれば魔力量が多くとも魅了や隷属を防ぐ魔道具を身に着けているなどとは思わず、そして知らなかったのです。

 

 知らずに実行したミランダは、殿下の機転のおかげで全ての嘘が露見して失敗、魔法を封じられました。


 それでも諦めなかったミランダは、わたくしたちが帰ったあと、まず使用人たちに話そうと思ったけれど様子がおかしい。仕方なしに両親に話したものの相手にされず。

 次に兄に話したところ、こちらは使用人たち以上に様子がおかしく、目が狂気を帯びていて、ゾッとしたと……恐怖にかられたそうです。

 これはまずいのではと早々に挨拶をして自分の部屋に戻ったのですが、兄が追いかけてきました――自分の剣を持って。その段階で監視に訪れていた騎士様たちが兄を止めようとしましたが、剣を振り回して危険な状態なため近づけず、ミランダのいるところへと歩いていきました。

 そしてミランダを見つけた途端、まるで獲物を見つけたように獰猛な顔をして笑い、嫌な予感を覚えたミランダは逃げようと兄に背を向けたところで背中を切られ、悲鳴を上げながら倒れました。そこで騎士様たちが動きましたが、それよりも早く兄がミランダに近づき、腕を何度も刺して切り落としたのだそうです。


 ミランダが無くした記憶はここまでで、あとは痛い、怖いと繰り返しているだけなのだそうです。そうして自分の精神を守るためなのか、ミランダは自分が前世の記憶を思い出した年齢までしか覚えておらず、それ以降は記憶がないのだそうです。

 魅了魔法と隷属魔法は既に封じられておりますから、いくら前世の記憶を思い出した時期だったとしても、魔法を使うことはできないようです。そのことで苛立った様子を見せていたらしいですが。


 とはいえ、今まで育った記憶がなかろうと、前世の記憶があろうと、ミランダは王族や高位貴族に魅了と隷属の魔法をかけようとし、ジョンパルト家全体に同じ魔法をかけ続けた犯罪者です。修道院など下手なところに入れることもできず、結局王都のはずれにある魔法関連の犯罪を犯した人が入る塔に幽閉されました。

 その塔はそういった魔法の研究をしているところでもあり、宮廷魔導師様が詰めている場所だそうです。

 ミランダが使っていた魔法の研究及び、もし再び混合型を使う者が現れてもいいように、解除や防御ができるよう、魔道具を作成するのだそうです。

 国や宮廷魔導師様にとって研究対象だとしても魔法の解除と腕輪を外すわけもなく、死ぬまでその塔から外に出られず……。

 ある意味、戒律の厳しい修道院に入れるよりも、厳しい処罰になったのではないでしょうか。


 正直に申し上げて、ミランダが……使用人を含めたジョンパルト家の者たちがどうなろうと、どうでもいい、知ったことではないと感じています。双子であったからといって同情する気もありませんし、助けようとも思いません。

 気づいた時にはもう、わたくしの周囲は敵だらけだったのですから。

 そんなわたくしの言葉に、殿下は「そうか」とおっしゃったあと、嘆息なさいました。


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