第12話 ジョンパルト家の末路

 まず、元兄とミランダは、先週末どころか、問題行動を起こした二日後に退学となりました。

 エドムンド殿下がそのお話を聞いたのは、授業も終わり、城に帰ったあとの先週末だったそうです。一応カレスティア家のお父様にはお手紙でお知らせしたそうですが、カレスティア家に来て最初の家族団欒だからと、わたくしには話さないと決めたのだそうです。

 できれば関わってしまった殿下からお話されたほうがいいのではとも提案されたらしく、殿下がそれをお受けしたそうです。

 それはわかったのですが……どうして謹慎がとけるどころか退学になったのでしょう?

 その理由は、元兄がジョンパルト家で問題を起こしたことと、それによってミランダが学園に通えなくなったこと。そしてミランダがかけていた魔法を解除したことによって伯爵家に起こった事件ことのせい、とお聞きしたまではよかったのですが……。


「え……爵位返上、ですか?」

「ああ。正確には、取り潰しと変わらないがな」

「まあ……」


 爵位を返上とは驚きです。どういうことなのかとお聞きしますと。


 まず、オビエス様がかけた解除の魔法は翌日にその効果が表れたと、監視のために王宮から派遣された騎士様と魔導師様、オビエス様が確認したそうです。けれど、懸念していた通り長い間ミランダの魔法にかかっていたせいで、使用人たちのほぼ全員が精神崩壊を起こす寸前だったそうです。

 すぐにオビエス様が伝言鳥で王宮に連絡し、追加で派遣されてきた騎士様と魔導師様によって王都郊外にある療養所に運ばれたそうです。こちらはミランダの近くにいなかった人たちばかりで、魔法を解除したこととゆっくりと静養すれば、元に戻るそうです。

 ただし、症状によっては通常の生活ができるようになるまで、半年から三年はかかるそうです。回復すればまた仕事もできるようになるのだとか。


 次に、ミランダの一番近くにいたせいで、ある意味被害者ともいえる元両親と元兄、ミランダ付の侍女二人ですが。元両親はミランダよりも高い魔力量でしたので、かろうじて精神崩壊は起こさなかったものの一部の記憶が曖昧なのと、軽い混乱と錯乱状態であることから、療養所にて隔離されたうえで数年間の静養が必要だそうです。

 ですので、王宮へ出仕してのお仕事はもちろんのこと、たとえ領地で静養しようとも、領地経営などできるはずもありません。

 代官を立てるにしても、王家から賜った土地なので王家から派遣することになるそうですが、ジョンパルト家の血筋――元父の直系であるわたくしや、彼の兄夫婦が二組おります。なので、わたくし以外にジョンパルトの領地経営を打診したところ、どちらも拒否。

 わたくしも未成年ですし、デビュタントをしていないので現状は爵位を継ぐことは認められず、既にカレスティア家に移籍しておりますので、返上するのが一番いいのだそうです。

 ただ、わたくしがデビュタントをし、もしジョンパルト家を継いでもいいと思うのであれば、学園を卒業するまでは代官を立て、王家が管理してくださるそうです。こればかりは話し合いをしないといけないようですが、わたくしがどうするか決めるまでは、王宮から代官を派遣すると、陛下と宰相様がお決めになったそうです。


 そしてミランダの専属侍女二人は、ミランダよりも低い魔力量だったせいで精神崩壊を起こし、廃人になってしまったのだとか。現在は療養所にて静養中だそうですが、今のところ元に戻る様子はないそうです。


 それから後継者の元兄に至っては、魔力量はミランダよりも高かったけれど、侍女二人と同様に元両親よりも長い時間をミランダと過ごしていたことで、やはり精神崩壊を起こしたそうです。同時に幻覚に見舞われたらしく、騎士様の制止を振り切り、錯乱した状態でミランダの背中や腕を切ってしまったのだそうです。

 ミランダの左腕は肘から先を切り落とされ、背中からの出血もあり、あわや命を落とす大惨事になるところだったのだとか。

 ミランダを切った元兄は彼女を切ったことで落ち着いたのか、それ以降は騎士様に拘束されても暴れることなく、おとなしくなったそうです。

 けれど、その後の元兄は突然声をあげて笑い続けたり、あるいは突然泣き出したり、いきなり叫んで暴れたりと危険な状態に。ある意味廃人になってしまったがために、療養と称して鉄格子のはまった小さな家に隔離という名の軟禁状態にされてるのだそうです。

 

 そして、一番の元凶であるミランダは、魔法を封じられはしたものの一番元気でした。けれど、元兄に切られたことが恐怖となって自分の殻に閉じこもり、幼児退行――つまり、それまでの記憶をなくしてしまったそうなのです。

 ミランダにお話を聞くと、七歳くらいまでの記憶しかなかったそうですが、その時に、ジョンパルト伯爵家の記憶とは別に、おかしなことを話したと言います。


 自分の前世はニホンジンでこことは違う世界の記憶があり、なにかしらの理由で死んだこと。

 それによって神を名乗る人物に転生を持ち掛けられ、それならば記憶を持ったまま自分が好きだった小説の世界に転生したいと願ったこと。

 兄か弟がいる公爵家か侯爵家の娘に生まれたいと願ったこと。

 魅了か隷属の魔法が欲しいと願ったこと。

 そう、話したのだそうです。


 あらまあ……ずいぶんと業突ごうつりですわね。一緒に育った今までのミランダとなんら変わらないではありませんか。


 けれど、そのどれもが却下されたうえ、小説の世界などないと言われて暴れ、散々ごねてふたつの魔法を奪うようにもらった挙句、小説に近い世界に転生させてもらったミランダは、その段階ではある意味全てを叶えられました。

 ところが、いざ生まれてみれば、小説の世界に近いどころか自分が考えていたのとは全く別の世界で、しかも一人娘どころか伯爵家の双子に転生。それに激怒したミランダは、奪った魔法のうち、魅了を使うことを決めたそうです。

 そして使ってみたものの、最初は両親と兄、わたくしには効果がなかったのだそうです。どうしてだろうと思ったミランダは、自分の専属侍女にかけてみたところ、きちんと魅了魔法にかかりました。

 魅了だけでは無理なのかもしれないと、魅了魔法と一緒に隷属魔法をかけたところ、短時間ではありましたが、両親と兄がかかりました。このままずっとかけ続けていれば、自分の好き勝手に生活できると考えたのだそうです。

 しばらくはそれでよかったのですが、一人だけ違う動きを見せました。それが双子の姉であるわたくしでした。

 こっそりとわたくしに魔法をかけたそうですが、なぜか魔法にかからなかったのです。気のせいかと思い、わたくしが寝ている間に何度もかけましたが、一度もかかることはなかったそうです。

 これはミランダにとって想定外だったのだそうです。

 どうしたら自分の言うことを聞かせられるか考えていた時、前世で読んだ小説――姉、または妹の持ち物を奪う話がたくさんあったことを思い出したミランダは、その小説のように妹であることを利用して姉であるわたくしを貶め、家から追い出そうとしたのだそうです。魔法がかからない以上、小説と同じように自分が断罪される可能性があるから、と。


 なんと身勝手なのでしょう。


 そこまで聞いて、殿下と一緒に嘆息いたしました。


 それから、ここから先は秘密の内容だとしてお話しくださったのですが。

 今お話くださったミランダのお話は宮廷魔導師様が犯罪者に使用する、過去の記憶を覗き見ることができる魔法を使い、彼女の失った記憶を探った時に出てきたものだそうなのです。

 その内容は呆れるほど自分勝手で、意味のわからない荒唐無稽な内容でした。


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