第4話 宮廷魔導師の実力

「「あ、あ……、な、ぜ……」」

「君たちが嘘をついたからだ。ルーベンがそなたたちとオフィリア嬢にかけた魔法はふたつ。ひとつはその話が嘘かどうかわかるもの。もうひとつは嘘をついた場合、今のように罰が下るものだ」

「「なっ!」」

「これは本来罪人にかける魔法なのですが、今回はとても厄介な人たちから話を聞かねばならぬと、王太子殿下からお聞きしまして。許可もいただいておりますので、このような形になりました」

「「……っ!」」


 あら? ふたつ、ですか?

 では、影に隠れるように発動していた魔法陣はなんだったのでしょう?

 よほどわたくしが不思議そうな顔をしていたようで、それに気づいたオビエス様がわたくしに話しかけました。


「オフィリア嬢、どうしました?」

「あの……、魔法陣は本当にふたつですか?」


 失礼だと思いつつも質問に質問で返します。すると。


「おや」

「「「「っ!?」」」」

「「は?」」


 オビエス様は楽しそうなお顔をなさり、殿下と二人の側近候補、学園長が驚いたように息を呑み。そして兄とミランダは意味がわからないといった顔で、首を傾げました。


「どうしてそう思われたのですか?」

「その……、ふたつの魔法陣の影に隠れるように、もうひとつ見えたような気がしたのです」

「ふふ……凄いですね。正解です。ただし、どのような魔法かは秘密です」

「そ、そうですか」


 オビエス様の言葉に全員が絶句いたしました。そんな様子を見たオビエス様は、わたくしを見て感心なさった顔をしています。

 勘違いではなくてよかったですわ。

 いえ、実際はまだ全てが終わっていませんので、よかったと言えるような状況ではないのですが。

 とりあえず制服の話に関しては、わたくしが嘘をついていないということを、わかっていただけました。そして制服にまつわるあれこれを改めて学園長から聞いた兄とミランダは、顔を青ざめさせています。


「ミランダ・ジョンパルト伯爵令嬢。すみやかに制服を返すように」

「……は、はい」


 悔しそうな顔をしています。きっと内心では怒り狂っているのでしょう。

 その証拠に、わたくしを睨みつけていますし。

 その顔を学園長や殿下たちにも見られているとわかっているのでしょうか。まあ、どうでもいいですわ。

 制服に関してはこれで終わりました。次はミランダと兄が訴えた、試験について不正があったかどうかです。


 正直に申し上げて、試験会場でそんなことはできません。

 まず、隣を覗けないように席が離れていたうえ、左右には衝立が設置されていました。そして衝立及び教室には、覗き防止の魔法がかけられていると、試験会場にいた監督官が説明してくださっています。

 さらに、答えを教えたりしないよう使用人が傍にいることも禁止され、別室にて控えている状態でしたし、筆記具以外は持ち込み禁止。複数の監督官と魔法による監視がなされている状態だったのです。

 そのような状態で、どうやって不正ができるというのでしょう。

 ミランダのことですから、勉強を疎かにしていたにもかかわらず、「ミランダは天才だ」と両親や兄に言われたことを鵜呑みにして試験に挑んだ結果、ほとんど答えがわからなかったに違いありません。

 そして教師をつけられることなく、碌に勉強をしてこなかったはずのわたくしがSクラス、自分は最底辺になったことが悔しかったのではないでしょうか。

 それならばいつもので制服を取り上げてSクラスの制服を着用し、Sクラスに紛れ込もうと思っていたのに、魔力の登録をしていることを知らず、制服を着ることができなかった。

 だったら不正をしたと喚き、自分がSクラスだと周囲に知らしめ、いつものようにわたくしを悪者にしようと考えた。なんとなくそう思います。

 きっと学園長もそう考えたのでしょう。

 ミランダが「姉が不正をした、本当は自分がSクラスだ」と言った途端にまた雷が落ちましたが、兄は納得しません。


「だったら、この場で試験問題を解いてもらおうではないか」

「なるほど! 学園長と宮廷魔導師殿、殿下もいますしね。不正のしようがない」

「お、お兄様!?」

「だろう? 十年前の試験問題を持って来よう。それで確かめようではないか」

「そうですね。ミランダ、よかったな! これでお前の言い分が正しいとわかってもらえるぞ!」

「や、やめて!」


 兄はミランダの言葉を聞くことなく、学園長の話に頷きます。そして当のミランダは顔を青ざめさせながら、必死に抵抗しています。

 当然ですよね。家庭教師がつけられていたにもかかわらず、わからないと駄々を捏ねて泣き喚き、母を味方につけて勉強しなかったのですから。挙げ句の果てに教師を解任し、マナーや勉強すらさせなかったのです。

 両親や兄が教えればまた違ったのでしょうけれど、それすらもしませんでした。

 マナーや勉強ができないのも当然です。

 学園長もオビエス様も、そして殿下たちも察しているのでしょう。兄やミランダにわからないよう、口角が上がっています。


「そなた自身が、姉は不正をしている、本当は自分がSクラスだと声高に言ったのだ。口先だけではなく、そのを示しなさい」

「……っ」


 学園長に強く言われ、ミランダは息を詰まらせて俯きます。

 わたくしたちの様子を見た学園長は、出入り口とは違う扉を開け、退室しました。十年前の過去問題を取りに行ったのでしょう。


 さて、どんな結果が出るのでしょうか。わたくしとしましては、十年前の過去問題がどのようなものなのか、楽しみです。

 すぐに戻って来た学園長は、その手にある紙束をふたつに分けると、ひとつは伏せた状態のままミランダの前へと置き、隣に座っていた兄をミランダから引き離しました。

 兄は不満そうにしていますが、学力を調べるのですから、当然ではないですか。横から口を出されてはたまりません。

 そしてわたくしは、学園長の執務机の横にある場所に案内され、席に着きます。同じように伏せた状態で、問題が目の前に置かれました。

 席が離れていますし、どちらにも監視がつく状態ですので、不正だのなんだのと言われることもありません。それがわかっているのでしょう……ミランダは恨めしそうな顔をして、学園長を睨んでおります。


「ペンはこれを使うといい。用紙は三教科分あるが、時間は限られているので、持ってきたのは三分の一程度だ。三教科分で制限時間を一時間とし、できる問題からやっていくように」

「はい」

「は、はい」

「それと、周囲の者は口を出すでないぞ? 出した場合、即座にその者の制限時間がなくなると思え」


 特に兄のお前はな、と言われた兄は、言葉を詰まらせて黙りました。兄と同じように、ミランダも不服そうに頬を膨らませます。

 口を出したら不正しているのと変わりません。

 それをわかっているのでしょうか、ミランダは。

 自分が不正をしていると声高に申したのに、自ら不正をしようとしてどうするのだと、呆れます。

 一旦深呼吸をして、心を落ち着けます。全部の問題ができると思っていません。それでも全力で問題を解くだけです。


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