第8話
梅雨が明け、本格的に夏がやってきた。そして今日は終業式。明日から夏休みがやってくると言うわけだ。毎度恒例の校長先生のありがたいお話を終えて、生徒たちは長い夏休みを満喫するため大急ぎで下校していく。
そんな賑やかな喧騒に置いていかれた様に、俺は一人で帰路についていた。真夏の昼過ぎ。炎天下空の下。さんさんと降り注ぐ太陽の暑い熱視線がカゲロウを作っている。
ショッピングモールの件から約一週間が経過した。
それぐらいも経てば、自分の気持ちに整理がついて、その間色々と考えた。
結果、気づいた事がある。
俺はあの後輩が気になっている。異性として見始めているのだ。というか端的に言ってしまえば惚れてしまっているのだ。だって、俺の為に高校を選んでくれて声をかけてくれて色々と他愛無い話に付き合ってくれる後輩だ。
彼女の行動原理が垣間見えて、しかもそれがとてつも無い優しさで出来ていたので、いつもの毒舌の彼女とは全然腹の中が違っていて驚いている。
これがいわゆるギャップ萌えと言う奴なのだろうか。
そして、この一週間俺は彼女と面会どころか連絡すらしていない。彼女を意識するだけで何をしたらいいか分からなくなってしまう。自分でも不自然だと分かっていながら動く事が出来ないのだ。
そもそも、俺は彼女を好きになっても良いのだろうか。俺は初恋を経験して、未だにそれを乗り越えたとは言い難い。未だに後悔はあるし、幼馴染みとのトラブル解決もできていない。そんな状態で彼女に好意を抱いてしまうのは、傲慢では無いのか。
そんな思考も過って、余計彼女と連絡が取りにくい。
メールを開き、文章を考えて打ってみては、削除を繰り返す。
彼女になんて言葉をかければいいのか。
彼女にどんな感情を抱けばいいのか。
何もわからない。上辺を撫でた言葉だけが、メールの文章に浮き上がってくる。
「はぁ……」
ため息が出る。
ため息は幸せが逃げていくと言うが、それだったら俺は相当に幸せを逃しているのだろうな。
彼女のあのとき見せた笑顔が頭にこびりついて仕方がない。
「どうすればいいんだ……」
露頭に迷う。
今の俺には彼女との付き合い方が分からない。このままじゃ今までの関係には戻れない気がして、少し、ほんの少しだけ。
寂しい。
そんな憂鬱で晴れやかな空模様を眺めていたら、メールが届いた。
『先輩、夏祭り、一緒に回りまわってくれませんか』
それをみた瞬間。俺は嬉しい反面、本来俺が話しかけなきゃいけない事を彼女にしてもらった事に少しだけ罪悪感を感じてしまった。
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