根幹

 彼らは、どうして不安を嫌がるのだろう。


 不安は、自分を守るための大切なサインではないか。生きようとする意思の現れではないか。


 それを避けるなんて、もしかして皆んなは生きようとしない、自殺願望者なのではないか?


 不安になれるのは、幸福なことなんだ。その考えは、私にとって、世界の真理のようなものだった。



 「お、ここにいたのか」


 昼休みのプールサイドだった。


 たまに来ることはあったが、まさか人に見つかるとは思っていなかった。


 「私に用でも?」


 軽く微笑んで尋ねる。相手は顔色は変えず、のそのそと近寄る。

 

         ボゴッ


 グーから来るのはいつ振りだろうか。最近は平手打ちがお気に入りだったのに。


 血の味を感じながら、彼を見つめる。


 「......」


  まぁ、そうでしょうね。


「痛いです。先生」


「は?黙れブスが」


  罵られ、殴られ、蹴られる。身体中に痛みが広がる。


 自分の力を感じたいのだろうか、逆らえない少女を見て、優越感に浸りたいのだろうか。


 「辛いか?」


今日は珍しい。私の意見を聞くなんて、そんな無駄な事してどうするのか。


 もう一度微笑みを作って、答える。

 

 「いいえ」


「何?もっとやれってか?」



 「辛くはないですよ?不安になれますから」


 


 


 

 

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