黒い曼殊沙華
高草木 辰也(たかくさき たつや)
第1話 霊障
いつまでもしつこく、大嫌いなくそ暑い夏がようやく終わり、やっと秋が始まった。
気が付けば、もうすでに彼岸に入っている。田舎では、道路沿いや畑のあぜ道、墓の周辺などに
この毒をもつ事から別名「
男はその日、久しぶりにドライブに出かけることにした。暑さもおさまり、秋晴れの心地よい風が吹く中で車を走らせる。 これといった当てもないが、人出が多い観光地は避けてのどかな田舎道を楽しんでいた。
「お~、あっちこっちで
そんなことを呟きながらステアリングを握るこの男、中年太りのためか年々
国道をしばらく走るとY字路が見えてくる。左側が
「えッ、何だこれ?? 新種なのか?
車を停め、不思議そうにその花を
「あれッ、しまった。スマホもカードも一杯で
残念そうにその場を後にしたが、そこには確かに一株から四本の茎に四つの黒い曼殊沙華の花が咲き誇っていた・・・。
ドライブから帰宅して軽くシャワーを浴びて一息つくと、久しぶりに飲みに行こうと思い立ち、
自宅からトボトボと歩いて行くとほどなくして馴染みのバーに着いた。バーと言っても田舎町の
「こんばんわ!」
「あら~
「そうだね、流石に夏は暑くてどこにも出たくなかったからね~」
ブツブツ言いながら
「いつものでいいかしら?」そう言ってグラスと
「ロックでね!」
「ハイ、ハイ!」
二人で乾杯してグラスに口を付ける。
「今日はね、天気が良かったからドライブに行ってきたんだよ」
「あら、いいわね」
「お彼岸のせいか、あっちこっちで曼殊沙華が咲いてたんだよ。だけど、通り道で一つ不思議な花を見たんだよ。 黒い曼殊沙華。 新種かねぇ~? あんなの見たの初めてだ! でも、あそこの一か所だけだったなぁ~??」
「えッ! それ、どこで見たの?」
「国道をずっと上がって行ってY字路に出るだろ、そこを左に入って数軒先の大きな
「それ、真っ黒だった? それとも、紫がかって黒光りしてた?」
「う~ん、そう言えば紫がかってたような、黒光りしてたような」
「やっぱりね!」
「ん??、 何で??」
「黒い曼殊沙華、それは普通の人には見えないわ! 太さんも見えるようになったのね。 真っ黒な花は人の中に見えるの。その人には持病があって、近いうちに死ぬわね。 紫がかって黒光りした花は家の
「ゲッ、そんな花なの? って言うか何で俺も見えるようになったの??」
「もともと太さんも少し“
このバーのママの裏の顔は、[
「そう言う花なのか、じゃ写真には写らないんだね。また今度行ってみてみようかなぁ~」
「ダメ! 絶対ダメ。 今から一週間、いや十日くらいは近づいちゃダメ! 近いうちにきっとその家が
そうママに強く言われたので、太は興味があったが近づくのは
その日から六日がたった朝。TVのニュースを見ていると、恐ろしい事になっていた。
「昨夜未明、〇〇町の民家で火災がありました。家屋は全焼し、焼け跡から家族と見られる四人の遺体が発見されました。現在、警察と消防で出火原因を調べているとのことです」
太にとってはとんでもないニュース報道だった。
「え~~! このあいだ行った所の家じゃねえか? 黒い曼殊沙華の・・・。 ママの言った通りだ!」
その後の調べで公表はされていないのだが、夫婦二人と幼い子供二人の四人が寝室で並んだ状態で
翌日、太はママの店に行きニュースの事について話しだした。
「ママ、驚いたよ。ママの言った通りになったよ! この間の黒い曼殊沙華の家、火事で全焼して家族が全員焼死したみたいだ。 びっくりしたよ!」
「そうでしょ、言った通りになったでしょう。危ないから近づいちゃダメなのよ!」
「いやぁ~~、それにしても凄いね、ドンピシャだね! 良く分かったねぇ~」
「あの後ね、少し気になったのであの家の事を霊視してみたんだけど、もっと凄かったわ。視ていて頭痛と吐き気に襲われたわよ!」
そう言ってママは詳細を話してくれたのだが・・・。
その家はその家系の本家なのだと言う。今から五代前の先祖に
カーニバルと言う言葉があるが、一般に
機械など無かった時代は全てが手作業と肉体労働だった。健康で丈夫な体こそが宝であり、まさに体が資本なのだ。小さな集落などは当然これが社会資本でもあったのだ。こうした集落でも時折、
男は日頃から
ママの霊視では、この時代の田舎の集落では現在の警察機構のような満足な物は無かったらしいが、それにしてもなぜだかこの男の非道が
しかし、被害にあった者たちの
四人の家族は先祖の霊障である怨霊の祟りによって
「ママ、水一杯ちょうだい」
「ハイ」
太はコップの水を一気に流し込んだ。
「俺、今夜は酒飲む気がしなくなった。外の空気が吸いたい」
「そうね、私も思い出したら気分が悪くなったわ。 今日はもう
そう言って
「そう言えばまだ夕飯食ってなかったんだ、腹へったなぁ~。何か食いに行こうか?」
「よくそんな気分になるわねぇ~?」
「焼肉でも行く?」
「バッカじゃないの?!」
「冗談、冗談。でも腹減ってるし」
「そんなことだから
「大きなお世話だ!!」
こうしてその夜は更けていった。
黒い曼殊沙華 第一話 霊障
終わり
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