人類最強のちっちゃいエースとの遭遇
第1話 史上最悪の落ちこぼれ。その配属辞令
神前誠(しんぜんまこと)少尉候補生は目の前の配属辞令を手にしてブツブツつぶやいていた。
周りに人がいないのを確認するとそれを読み上げる。
「遼州同盟会議・遼州同盟司法・治安局 遼州同盟保安委員会 直属実力行使機動部隊、機動部隊、第一小隊に配属する……ってなんだよ、遼州同盟保安委員会って……司法・治安局って警察じゃん。パイロットいらないと思うんだけど……」
と言って誠は周りを見る。朝の出勤時間と言うこともあり、通り過ぎる人も少なくはない。それでも誠を気にかけることなく、大柄の誠をかわして自動ドアを出たり入ったりしていた。
誠は再び辞令に目をやった。
「それに実力行使機動部隊……。総本部の人事課まで、出てこいって言われて、来たら、こんなの渡して「はい、地下三階の駐車場入り口で女の人が迎えに来るって……あそこは『特殊な部隊』だって言うから、『「特殊部隊」ですか?』って聞いたら『「特殊部隊」じゃなくて、「特殊な部隊」だよ』って……なんで、「な」が入るんだよ……エロゲか?嫌いじゃないけど、僕はパイロットじゃなくてキャラデザインで呼ばれたのか?あのスダレ禿の眼鏡の大尉……木刀があったら、ぼこぼこにしてやる……」
誠がいるのは地球から一千光年以上離れた植民第24番星系、第三惑星『遼州(りょうしゅう)』。そこに浮かぶ火山列島は『東和共和国』と呼ばれていた。その首都の『東都(とうと)』。その都心にたたずむ赤レンガで知られる建物だった。
目の前には駐車場と言うだけあり、どこを見ても車だらけ。9時の開庁直後とあって、車の出入りが激しく、呆然と立ち尽くす誠の横を人が頻繁に本部建物と駐車場の間を行き来している。
そんな中神前誠少尉候補生は呆然と一人、利き手の左手に辞令、右手に最低限の荷物を持って立ち尽くしていた。
8月半ば。そもそも大学卒業後、幹部候補教育を経てパイロット養成課程を修了した東和宇宙軍の新人パイロットがこの時期に辞令を持っていることは実は奇妙なことだった。
前年の3月から始まる大卒全入隊者に行われる幹部候補教育は半年である。その後、志望先に振り分けられ、各コースで教育が行われるわけだが、パイロット志望の場合はその期間は一年である。
本来ならばその時点、6月に配属になるのだが、そもそも人手不足のパイロットである。教育課程の半年を過ぎたあたりから、見どころのある候補生は各地方部隊に次々と引き抜かれていく。一人、一人と減ってゆき、課程修了時点では全志望者の半数が引き抜きで消えていく。それが普通なら6月の出来事である。
普通ならそこで配属先が決まる。それ以前に東和軍の人事の都合上、その時点ですでに配属先は決まっているものである。実際、誠の同期も全員が教育課程修了後、各部隊へと散っていった。
しかし、誠だけにはどの部隊からもお呼びがかからなかった。教育課程の修了式で教官から誠が伝えられたのは、「自宅待機』と言う一言であった。
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