35.はずだった

けたたましいサイレンと共に、辺りを強烈な光が照す。

昼かと見間違えそうなほど強烈な眩しさに顔を庇いながら、マッピーは教育訓練で教わったことを思い浮かべていた。

これは会館の隣に建てられた監視塔からのサーチライトの光で、表向きは侵入者を見つけるためのものだが、その実収容違反者を逃さないための目的もあるということを。


つまり、タイムリミットが訪れた。

ミミックの不在がバレてしまったのだ。


「ミミック、まだ間に合います!

壁の割れ目から部屋にもどって……」


せっかく丸く収まりそうだった事態をこれ以上引っかきまわしたくないという一心で呼びかけるが、熱さえ感じる光の中で薄目を開ければ、更なる絶望がマッピーを待ち受けていた。


ミミックはどろりと輪郭を歪ませていた。

夏に放置された氷が熱で急速に溶けていくように、ヒトの形が保てずくっつけたばかりの腕の一部がぼたりと落ちた。

思い出したのは個人部屋の掃除、部屋の明かりを点けた直後のミミックが、しばらく動かなくなっていた時だ。


「まさか、強い光に照されると動けなくなるんですか? 嘘でしょ!」


あの時は数秒だったが、今はその数秒が命取りだ。

施設の壁さえ破壊し、サーチライトは的確にミミックを狙っている。

直に武装した職員達が駆けつけるだろう。

捕縛されれば、ミミックに待っているのは罰か、拘束か、それとももっとひどいなにかか。


それはイヤだ、とマッピーは強く歯を食いしばる。

自分があんなに剣を振り、言葉を尽くして納めかけたミミックを、パッと出てきただけの奴らに鎮静させられるのは腹立たしくて仕方なかった。

なんなら獲物を横からかっさらわれた気にすらなった。


どうする、どうすればいい。

これまで考えてこなかった報いだとでも言うように、残りわずかしか残っていない自由な時間で頭をフル回転させる。

この状況を打破できる策をひねり出さんとする。


ただ。

使わなければどんな物だって錆び付いていく。

誰もが納得する、鮮やかに解決できる策はなにもない空中からは、ましてや怠けていた脳ミソからは生まれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る